「デジタル人民元」は米ドルの覇権を奪うのか

「中央銀行発行のデジタル通貨」虚像と実像

2020年に入ってからは、蘇州(江蘇省)、深圳(広東省)、成都(四川省)、雄安新区(河北省)の4つの「重要実験都市」で、テスト運用が始まりました。このテストには3つの主体が参加しています。

1つ目は中国人民銀行や各地方政府などの公的部門、2つ目は四大商業銀行やアントフィナンシャル、テンセントなどの金融サービス事業者です。そして、実際にデジタル人民元を使う店舗としては、スターバックス、マクドナルド、サブウェイ、無人スーパー、地下鉄、書店など幅広い先が含まれています。蘇州では地方政府職員に対する交通費の支給としてデジタル人民元を発行する実験も行われています。

全国展開の時期としては、2021年中が有力視されていますが、遅くとも2022年2月の北京冬季オリンピックまでには使えるようにするとの中銀幹部の見通しが伝えられています。このように中国は、CBDCの発行に向けて世界の中銀を一歩リードしており、本格導入に向けて着々と準備を進めています。

「リブラに対抗しようとしている」は間違い?

さて、デジタル人民元について、報道では「中国は、フェイスブックのリブラに対抗しようとしているのだ」といった論調が目立ちました。これは、リブラ構想が2019年6月に発表され、その直後の8月頃から中国人民銀行の高官による「発行は近い」といった発言が聞かれるようになったためで、確かにその部分だけを取り出してみると、あたかも中国がリブラに対抗しているように見えます。

しかし、その見方は事実とは異なるのではないかと筆者は考えています。中国人民銀行では、すでに2014年夏には、CBDCの研究チームを立ち上げ、中銀デジタル通貨の研究に着手しています。2017年には「デジタル通貨研究所」(数字貨幣研究所)が設立され、研究体制がさらに拡充されました。リブラ構想が出てきたからといって、慌てて開発に着手したわけではなく、数年をかけてじっくりと準備を進めてきたのです。

一方、フェイスブックによるリブラへの取り組みが始まったのは、2017~2018年ごろとされています(参考:『フェイスブック「リブラ」が犯した致命的なミス』)。つまり、デジタル通貨開発への着手は、中国人民銀行のほうがずっと早いのです。リブラ構想が発表されたのを聞いて、それに対抗するために大急ぎで開発を進めているというわけではありません。この点は、誤解のないようにしておく必要があるでしょう。

もう1つの気になるメディアの論調が、デジタル人民元について、「アメリカのドル覇権に対する挑戦であり、人民元の国際化を目指したものだ」とする見方です。これもまた、メディアが好みそうな見解ですが、やはり筋違いな見方と言えるでしょう。

そもそもデジタル人民元は、「現金の代替」として、国内での個人や企業の取引(小口決済)に使うことを目的としています。一方で「通貨の国際化」を論じる場合には、貿易取引や外為取引などの国際的な決済(大口決済)に幅広く使われるかどうかが基準になりますが、そもそもデジタル人民元は、そうした国際的な取引での利用を目指したものではないのです。

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