国内化学系メーカーがこぞって自動車関連分野に力を入れてきた背景には、生き残りをかけた差別化戦略がある。
化学・繊維は中国を始めとするアジア勢の台頭が著しく、価格だけで勝負が決まる汎用品で日本企業はもはや太刀打ちできない。そこで各社は「脱汎用」をキーワードに技術力や品質で勝負できる高機能素材・材料へのシフトを進めており、その大きなターゲットの1つが自動車用途だ。
航空機ほどではないにしろ、自動車用途の素材・材料は高い品質・信頼性が要求されるため、中国企業などに対して日本勢の強みが発揮しやすい。また、「自動車はコストダウン要求が厳しいが、製品が採用されれば、その車種がモデルチェンジするまで安定的な数量が毎年見通せる。これは大きな魅力だ」(化学繊維メーカー幹部)。
さらに素材転換の追い風も吹く。環境規制などを背景として、自動車業界は燃費改善に向けた車体軽量化やHV・EV強化を推し進めている。軽量素材や車載電池材料のほか、安全性や快適性などに寄与する商材も今後の需要拡大が確実視されており、化学系企業にとっては絶好のチャンス。国内勢はこの商機を生かし、日系自動車業界だけでなく、欧米の自動車産業との取引拡大にもつなげたい考えだ。
需要回復に備えて投資は継続
そうしたさなかに起きたコロナショック。少なくとも2020年度は自動車関連分野の大幅な落ち込みが避けられず、感染の収束時期や経済悪化の動向次第では、2021年度も厳しい取引環境が続く可能性はある。
しかし、東洋紡の楢原誠慈社長は5月の決算会見でこう言い切った。「平時であれば自動車は世界的に需要が安定しているし、力を入れているエアバッグ基布などは当社に技術的な優位性もある。今回はコロナで急激に落ち込んだが、自動車関連が最重要分野の1つという位置づけは何ら変わらない」。
旭化成も強気のスタンスだ。「EV用のセパレーター、シート用の人工皮革といった製品は、コロナ問題が落ち着けば再び需要拡大局面に戻る。そのときに備えて、こうした分野の能力増強投資は計画したとおりに粛々とやっていく」(柴田豊副社長)。
コロナ影響で自動車用途の素材・材料需要が大幅に落ち込む中、足元の業績悪化に耐えながら、収束後の事業拡大に向けてしっかり手は打つ。化学・繊維メーカーにとって、2020年はそんな我慢の1年となりそうだ。
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