顔認証などの生体情報を利用したテクノロジーと個人のプライバシー保護のあり方をめぐる注目の裁判が中国で始まった。原告は浙江理工大学の副教授(准教授に相当)で行政法およびインターネット関連法の研究者の郭兵氏。被告は浙江省杭州市のサファリパーク「杭州野生動物世界」だ。その初回審理が6月15日、杭州市富陽区人民法院で開廷した。
訴訟のあらましはこうだ。郭氏は2019年4月27日、杭州野生動物世界の2人用の年間パスポートを1360元(約2万540円)で購入。その際、杭州野生動物世界は郭氏の指紋をスキャンし、有効期限内はパスポートと指紋情報を示せば何回でも入場できると請け合った。ところが同年10月17日、郭氏の携帯に杭州野生動物世界からメッセージが届き、「年間パスポートは顔認証による入場に変更された。指紋認証はすでに廃止されたので、できるだけ早く顔認証の登録をしてください」と一方的に告げられた。
郭氏はこのメッセージが事実かどうかを確認するため、2019年10月26日に杭州野生動物世界に出向いた。すると応対した職員は、顔認証の登録をしなければ入場できず、年間パスポートの返品・返金にも応じられないと説明した。その2日後の10月28日、郭氏は杭州野生動物世界を相手に民事訴訟を提起。生体情報の収集を顧客の同意を得ずに強いるのは「消費者権益保護法」への違反だと訴えている。
テクノロジーより「情報の非対称性」に問題
この裁判の焦点は、杭州野生動物世界の年間パスポートの契約に含まれる生体情報に関する条項が有効か否かだ。消費者権益保護法の第29条は、経営者が消費者の個人情報を収集・使用する場合、その目的や必要性、使用する範囲などをあらかじめ明示したうえで、消費者の同意を得なければならないと定めている。
「顔の特徴などのデータは個人に属するデリケートな情報であり、仮に漏洩したり濫用されたりすれば個人の身体や財産の安全を容易に脅かす危険がある」。そう主張する郭氏は、杭州野生動物世界による顔認証の強制は無効だとして年間パスポートの返品・返金、交通費の補償、郭氏の個人情報の削除などを求めている。これに対して杭州野生動物世界は初回審理で、入場方法は実際には5種類あり顔認証は必ずしも必要ないと反論した。
テクノロジーの進歩とともに、個人のプライバシー保護とビッグデータの収集・利用の矛盾は大きくなる一方だ。北京大学法学部教授の王錫鋅氏は、問題の本質はテクノロジーよりも「情報の非対称性」にあると指摘する。「企業は個人情報を大量に集めて何をしているのか。濫用されることはないのか。もし盗まれたらどうなるのか。人々が不安を感じるのは、個人情報がどのように利用・管理されているのかが不明瞭だからだ」
(財新記者:汪秋言)
※原文の配信は6月16日
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