目標はかえって働く人の「生産性を低下」させる

優秀な人にとって目標は天井になってしまう

経済学をかじった人なら、雨でタクシーに乗りたい人(需要)が増えたのに、運転手の数(供給)が変わらないのがいけない、と思うかもしれません。しかし、実際に起こっているのはそんな机上の空論ではありません。

アメリカのタクシー運転手は、多くの場合これだけ稼いだら店じまいにするという、1日の売り上げ目標やノルマを持っています。その日の売り上げがノルマに達した瞬間、家へ飛んで帰り、次の日に備えて体を休めるのです。

目標の数字そのものは毎日同じです。しかし、雨の日はタクシーに乗る人が増えるため早々に目標を達成し、その瞬間一目散に家に向かうというわけです。

目標が「天井」の働きをする

同じことは企業の「売り上げノルマ」でも起こります。

リーダーがノルマを設定するのは、営業担当者の業績を促進するためでもあります。しかし、実際にはノルマはそういうふうに働きません。優秀な営業担当者は、年度が終わる何カ月も前にノルマを達成し、契約締結を先延ばしにして、翌年有利なスタートを切れるようにします。契約の「貯金」を作るのです。

売り上げ目標は優秀な営業担当者の業績をかえって低下させます。ニューヨークのタクシー運転手同様、業績を促進する触媒となるどころか、上限を決める天井の働きをするのです。

業績不振、もしくはごく平均的な担当者の場合はどうでしょう? 奮起を促す起爆剤になるのではないでしょうか? しかし、そうはなりません。平均的、または業績不振の担当者に何が起こるかというと、ノルマは単にプレッシャーとなります。しかも、それは自分の重要な目標を達成するために自分で課すプレッシャーとは種類が異なるプレッシャーです。

会社に押し付けられた目標を達成しなければ、というプレッシャーは強制であり、強制は恐怖と同類です。恐怖に駆られた社員は、時に追い詰められ、不適切または違法な方法に走ってしまうことがあります。

アメリカのウェルズ・ファーゴ銀行が、各支店に抱き合わせ販売のノルマを課したときに起こったのが、まさにこれでした。ウェルズ・ファーゴの個人向け商品担当者は、当座預金口座の開設に来た顧客に、普通預金口座とクレジットカード、ローンも合わせて勧めることになっていました。しかし、そうしたノルマが課されていたにもかかわらず、抱き合わせ販売が増えないどころかとんでもないことが起こりました。

顧客に無断で350万件を超える口座が開設されていたのです。強制は、人の目を曇らせ、善悪の判断をつかなくさせてしまいます。

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