目標はかえって働く人の「生産性を低下」させる 優秀な人にとって目標は天井になってしまう

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従業員の評価としても、目標は役に立ちません。多くの企業が、達成した目標の数で個人を評価しますが、問題が1つ。各従業員の目標の難易度を平準化しない限り、相対的な業績を客観的に判断することは不可能なのです。

例えば、ビクトリアとアルバートの2人を評価するとします。2人はともに5つの目標を掲げており、年度末時点でビクトリアが3つ、アルバートが5つをクリアしていたとします。

目標達成の数ではアルバートに軍配が上がりますが、だからといってアルバートのほうの業績がいいとは限りません。もしかすると、ビクトリアの目標は「帝国を統治する」で、アルバートの目標は「お茶を淹れる」のようなものだったかもしれないのです。

目標達成度でビクトリアとアルバートを評価するには、すべての目標の難易度を完璧に測定し、すべてのマネジャーが完璧な一貫性を持って評価に臨む必要があります。これは現実には不可能なので、評価手段としても目標を使うことは本来できないのです。

「自己評価」で謙虚な自分をアピールする人々

年度末に目標に照らして行う「自己評価」にも、疑問が残ります。

おそらく皆さんがやっているのは、目標を全部達成したと豪語して傲慢な勘違い野郎だとにらまれるリスクと、計画どおりに進まなかったことを認めて上司や会ったこともない重役にボーナス減額の口実を与えるリスクとの間で、適当な落としどころを見つけようとする作業ではないでしょうか。

言い換えれば、目標の自己評価とは、注意深い自己宣伝と、政治的な位置決め、そしてどれだけ自分をさらけ出すか、猫をかぶるかの選択です。

そんな部下の目標に対面するチームリーダーの心理も、歪曲します。年度末が近づくと、チームリーダーは目標達成用紙の束を前に腰をおろします。部下の目標の下に、それぞれの仕事ぶりを説明する短い1、2文を書きながら、チームリーダーの頭をよぎるのは、部下の仕事ぶりのことではありません。どうしたらこの山を片付けて、やることリストから「目標の振り返り」という項目を消せるかということです。

評価される部下と同様、リーダーも貴重な時間を無駄にしているという焦りに駆られています。目の前にあるのは、やろうと思っていることを適当に思いついた分類にはめ込み、読む人にできるだけ感銘を与えるように書き、周到に位置づけた自己評価を散りばめたものでしかないからです。

チームリーダーにとってこの用紙への記入は、管理職の仕事のなかでも最悪の部類に入ります。「去年の評価より短くても誰も文句を言いませんように」と願いながら、簡潔な文章を書くしかありません。

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