飲酒に厳しいイスラム教徒「消毒液」使用の是非 アルコール成分を禁じる動きも出てきている
ただし、これが本当に根拠になりうるかは、判断がかなり難しい。何よりこれは、『クルアーン』や『ハディース』に出てくるものではない。ここに登場するアル・ハサンなどは、ムハンマドの孫弟子にあたるイスラム法学者である。その点で、イスラム法学者個人の見解だということになる。
消毒にアルコールを用いていいのかどうかについて、必ずしも明確な根拠があるとは言えない。神の啓示ではないし、ムハンマドが言ったことでもないのだ。したがって、消毒にアルコールを用いてはならないと考えるイスラム教徒が多いというわけではない。問題は酔うかどうかである。消毒用のアルコールにアレルギー反応を起こす人はいるが、それで酔うことはない。
しかし、アルコールにかんして、もう1つ問題になることがある。それが、料理に用いられる酒である。調理を行うときに、酒が用いられることが多い。和食なら日本酒が、中華料理なら紹興酒が、洋食ならワインが使われる。
和食では、日本酒のほかに、味醂(みりん)も用いられるが、これもアルコール飲料で、正月のおとそには、味醂が使われることがある。なお、味醂風調味料と言われるものは、ノンアルコールである。
酒の扱いは信者それぞれで異なってくる
料理で熱を加えれば、大部分のアルコールは揮発してしまう。しかし、すべてが揮発するわけではなく、一部は微量だが残る。そのため、アルコールに弱い人の場合には、それで酔ってしまうことがある。この点からすると、消毒用のアルコールとはかなり事情が違ってくる。ケーキなど、アルコールをかなり使っているお菓子も同じである。
ただ、イスラム教が生まれた時代、それが誕生した地域で料理に酒を使う習慣はなかったものと思われるので、『クルアーン』や『ハディース』において、それを禁じることばは記されていない。
しかし今日では、イスラム教復興の動きのなかで、『クルアーン』や『ハディース』に記されていることに忠実であろうとする傾向が生まれている。つまり、イスラム法であるシャリーアを文字通りに実践しようというわけである。こうした傾向をさして、「イスラム教原理主義」と表現される場合もある。
立命館大学教授でインドネシアの食文化について研究している阿良田麻里子は、「宗教による食のタブーのあらまし」(『食文化誌 ヴェスタ』第105号2017冬〈特集〉宗教的タブーとおもてなし)という記事のなかで、酒に対するイスラム教徒の態度の多様性について、次のように述べている。
「飲酒の場への同席さえ拒む人もいれば、自ら酒をたしなむ人もいる。調味料への酒精添加さえ拒絶する人もいれば、酒やワインで味付けした料理を食べる人もいる。豚への忌避感は強いが、酒はそうでもないという人は珍しくない」
豚肉と違い、酒の扱いは、個々のイスラム教徒によってかなり変わってくるのである。ただ、阿良田によれば、東南アジアのハラール認証では、最も厳しい基準を採用するので、アルコールを含んだ料理や食品はすべて、禁じられたハラームになるという。
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