ただ、新ジャンルなどの需要が増えても、ビールより価格が安いためメーカー側の利益率は向上しない。そのため、アサヒグループホールディングス(GHD)のIR担当は「短期的には新ジャンルやチューハイの需要が高まるとはいえ、長期的にはビールに戻していかなければならない」と話す。
今後の焦点となる販売促進費
ビール回帰を貫くのであれば、強みとしてきた業務用ビールの根本的な戦略の練り直しが必要だろう。飲食店は新型コロナ対策で密接を避けるために客席を減らすなど、従来とは違った営業形態を模索している。業務用ビールの販売にも中長期的な影響が避けられない。
焦点になりそうなのが、飲食店に出している販売促進費だ。飲食店で自社商品を採用してもらうため、コンペのように他社と協賛金を競い合う慣習がビールメーカーにはある。協賛金という名目で、冷蔵庫やジョッキグラス、お店の看板からメニューなどを飲食店に提供する。この協賛金を中心とした販促費がかさむことから、日本では家庭用より業務用ビールの利益率が低いといわれている。
「飲食店との昔ながらの付き合いや、情に訴える、足で稼ぐといった昔ながらの営業方法を変え、費用対効果の可視化を進めるべき。会社側もそう認識して取り組み始めている」。JPモルガン証券 シニアアナリストの角田律子氏はそう指摘する。
あるアサヒGHDの関係者は「今後の市場の状況によっては、業務用に重きを置いていた従来のやり方を見直す。コスト削減も視野にある」と話す。
とはいえ、飲食店への販促費はメーカーにとっての「聖域」。特にアサヒビールの場合、スーパードライがシェア1位になって以来、小さな居酒屋も含め幅広い飲食店に食い込んできたという経緯がある。これまでに築いてきた飲食店との関係を損なうわけにはいかないという現場の思いは強いはずだ。
コロナ禍によって、今まで以上に経営の効率化が求められている中、経営陣はどこまで変革に踏み切れるか。その覚悟の有無がアサヒビールの今後を左右しそうだ。
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