トランプは対中強硬姿勢をこれから強めていく 大統領選へ向け米中貿易合意も揺らぐリスク

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香港自治問題も今後、米中関係を悪化させる引き金となるリスクだ。アメリカがコロナ危機で混乱する中、その隙を狙って中国政府は国家安全法を導入したとアメリカの有識者は指摘している。しかし中国は、アメリカは香港問題については口先では批判しても、介入はしないと捉えている。

5月29日、トランプ大統領は香港に対する優遇措置を停止することを発表した。1992年香港政策法に基づき、香港に自治がないと判断すれば大統領令で香港と中国を同様に扱うことが可能となっている。いまだに大統領はそのような大統領令を発効していないが、選挙戦の中窮地に立たされれば、香港自治問題により積極的に介入していくことも想定される。

また仮に香港での抗議活動が拡大し、中国人民解放軍が抗議活動を武力で鎮圧して、流血事件などが映像で流れるような事態になれば、米中関係は一気に悪化するだろう。

人種問題から目をそらすためにも中国叩きへ

目下、ミネソタ州の黒人暴行死をきっかけに、トランプ政権の人種問題の対応について社会不安が高まっている。これも、大統領選に向け対中政策を強硬化させる要因になるだろう。

大統領の人種問題に対する消極的姿勢について、民主党からの批判は強まっている。CBSニュースの世論調査(2020年5月下旬~6月上旬)では人種問題に関わる大統領の対応について、共和党支持者の72%が支持したのに対し、民主党支持者の92%が不支持。全国民では58%が不支持であることからも、仮に本日、大統領選が行われたとしたら、大統領の再選は難しい。

黒人暴行死に関わる多数の国民の不満は早期に消えることはなく、全米各地で抗議活動が展開され、それに伴う社会不安は長期化する様相を見せている。多くの国民はその責任は現職大統領にあると捉える。トランプ大統領がいくら民主党が党派対立を煽っているのだと訴えても、効果は限定的だ。そのため、超党派で合意可能な対中強硬策を発動することで、国内問題から海外に国民の目をそらす効果を狙うと考えられる。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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