トランプは対中強硬姿勢をこれから強めていく 大統領選へ向け米中貿易合意も揺らぐリスク

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今の米中関係を唯一、細い糸でつないでいるのが米中貿易第1段階合意である。いつ破棄されてもおかしくないとの指摘がある一方、現時点ではアメリカ側がこれを破棄する可能性は低いとの見方が支配的だ。なぜなら、破棄による経済的影響、大統領側近、そして選挙への影響の3点が抑止力となっているからだ。

1点目は、仮にトランプ政権が合意を破棄すれば、米中間で関税引き上げなど貿易戦争が再びエスカレートすることが予想され、株式市場の下落そしてアメリカ経済のさらなる悪化のリスクがある。トランプ大統領はそれを理解しているため、破棄しないと考えられる。

2点目は、ライトハイザーUSTR(通商代表部)代表が米中貿易第1段階合意を守ろうと必死であることが安心材料になっている。各種貿易交渉で成果をあげ、トランプ大統領が絶大の信頼を置く同氏が反対するかぎり、同合意が破棄される可能性は低いであろう。

3点目は、トランプ大統領は同合意の署名式典をホワイトハウスで盛大に行うなど、その成果をアピールしてきたことだ。まだ発効から半年も経たない中で破棄した場合、当初の合意自体がアメリカの国益を損なう内容であったと捉えられるリスクが生じる。さらに合意破棄によって中国によるアメリカ産農畜産品などの輸入拡大のコミットメントも失うこととなり、中国の報復関税に耐えてきた農家にとってこれまでの努力はいったい何だったのか、ということになる。同合意をトランプ政権が破棄すれば、民主党が選挙戦で大統領を批判できる材料は増える。

8月に行われる米中貿易合意の評価に注目

今後の米中関係がヤマ場を迎えるのは8月だ。米中両国は第1段階合意の成果を半年ごとに評価することとなっている。2月14日に同合意は発効したことから、8月13日頃に1回目の評価がなされるとみられている。

そもそも第1段階合意の署名時点から、中国によるアメリカ産農畜産品の輸入拡大に関する合意内容は、達成が難しいとされていた。だが、コロナ危機でアメリカの国内需要が低下したことで、さらに達成は絶望的となった。

通商政策においては大統領に多大な権限が付与されているが、トランプ大統領は直感に基づき発動することが多々ある。仮にトランプ大統領が合意を破棄するほうが選挙戦には有利に働くと判断すれば、ライトハイザー代表など信頼する側近の反対をも押し切って破棄する可能性はあろう。例えば、コロナ感染の第2波が8月頃に押し寄せ、外出自粛・禁止令の復活を余儀なくされた場合などが考えられる。

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