大作を迅速公開「ソニー・ピクチャーズ」の信念 コロナ禍の劇場救いたいと「若草物語」封切り

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その理由について、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの佐藤和志映画部門 日本副代表/営業 SVPは、「仮に映画を予定通り公開しても、途中で上映ができなくなれば再開のめどはわかりませんし、再上映も難しいのではと思った。そうするとお客さまが劇場で鑑賞するチャンスを奪ってしまうことになる。皆さんが安心してもらえる段階で公開しようということで、延期を決定した」と語る。

さらに、この映画が主に女性、さらにティーンから中高年まで幅広い層をターゲットにしていることも延期の理由のひとつとしてあった。新型コロナが、年齢が高くなるにつれ重症化リスクが高まると言われており、高齢の女性層を中心に来場に慎重になるのではとの懸念があったからだ。日本の公開延期に関しては日本支社の判断であり、本社に国内の状況を報告していく中で、公開延期やむなしという流れになったという。

映画の火を消してはいけない

4月7日に7都府県で発令された緊急事態宣言は、4月16日には全国に拡大。全国のほとんどの映画館が営業を休止した。それからおよそ1カ月後の5月14日には東京、大阪、北海道など8都道府県を除く39県で、緊急事態宣言が解除され、多くの地域の映画館が順次営業を再開することとなった。

6月5日から営業を再開した、TOHOシネマズ日比谷。感染防止対策を強化しているが、来場客はまだまばらだ (筆者撮影)

しかし実際は、特定警戒都道府県(東京、大阪、愛知、福岡、北海道など)に指定された13都道府県の映画館の興行収入を合計すると、全国の約75%を占めている。そうしたエリアで営業ができない状況で新作を封切るのは、興行的にもリスクが大きい。

また、こうした大作が東京・大阪に先行して他県で上映初日を迎えるのも、ほとんど前例がなかったということもあり、配給会社としてもなかなか新作を出そうという決断には至らなかった。

事実、この間に公開された新作映画はほとんどなく、劇場側は『パラサイト 半地下の家族』『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』『一度死んでみた』といった今年の1~3月に公開された作品の続映や、『天気の子』『シン・ゴジラ』といった旧作を再上映する対応をとっていた。

映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の公開をひとあし早く決定したのは、ようやく地方の劇場が営業を再開した時期で、東京を含む8都道府県の緊急事態宣言解除のめどはたっていなかった。それでも新作を出そうという決断に至る。

「映画の火を消しちゃいけない、なんとか映画界に一筋の光でも当てたいと思ったのが大きな理由。主人公の女性が困難に立ち向かいながら、自分らしさを貫いて生きていくことの大切さに共感してもらえるこの作品は、図らずもこんな時代だからこそ共感していただけるのではないかと思っている。ハリウッド作品の新作上映となれば、それが呼び水となって、映画館に観客が戻るきっかけにもなる。上映を決定した時点では、6月12日に東京の映画館で公開できるか見通せず、数字的なリスクもあったが、厳しい時だからこそ、ソニー・ピクチャーズが頑張ってやろうということになった」(佐藤氏)

結果的には東京の映画館の営業再開時期も早まり、ほぼ全国の劇場がそろう形で公開することができた。

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