積極投資が無駄に?「曲がり角」の鉄道会社経営 コロナ禍後の通勤・通学、観光需要はどうなる

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線路ほど巨額ではないが、新製車両に対する投資額もまた、鉄道会社にとっては大きな負担だ。公表されるケースは少ないが、最新式の通勤型電車は、1両につき2億円近くすると言われる。

通勤客の減少が定着し、列車本数の削減が不可避になれば、車両数の削減も鉄道会社は見据えなければならない。この場合、比較的古く、耐用年数が近づいている電車を多く抱えている会社は、それを廃車してゆけばよいかもしれない。一方、最近、新型電車の大量投入を行った会社、あるいは2020年の東京オリンピックを見据えて、車両の取り換えを予定していた会社などは、広げた扇を縮めるのに苦労するだろう。

鉄道車両メーカーへの影響も考えられる。写真は発注元への納品のため運転される「甲種輸送列車」(筆者撮影)

代表が、新潟県内に自社で電車製造工場を建設した(現在はグループ会社が運営)JR東日本だ。1日に電車1両で製造していたペースを、落とさざるをえなくなる事態は避けたいところであろう。

現在、横須賀線用の既存車を取り換えるためのE235系が製造されているが、社会情勢次第では、今後の製造計画を見直す必要も出てくるのではないか。そうした面でも、投資の過剰が心配される。

もちろん、鉄道会社が車両数を減らさざるをえなくなれば、車両メーカーの経営にも影響が及ぶ。今回の事態は全世界的なもの。海外での車両需要に活路を見出すことも難しい。

旅客サービス面の判断も難しい?

少子高齢化を見据えた施策は、以前から、各鉄道会社で顕著に見られていた。わかりやすい例が、沿線価値向上を目的とした、座席指定料金の追加により座席を確保できる「着席保証列車」の普及だ。この6月6日には、東武スカイツリーラインと東京メトロ日比谷線を直通する「THライナー」も新たに運転を開始した。

東武鉄道は6月に東京メトロ日比谷線直通の着席保証列車「THライナー」の運転を開始した(編集部撮影)

しかし、非常事態宣言が出されると、こうした列車は運休または本数削減が真っ先に実施された。一般の列車でも楽に座れるほど空いてしまった事情もある。また、輸送効率に劣るため、万一、社員の新型コロナウイルス感染症への感染により乗務員が不足した場合を考え、予備の人員を確保しておく意味合いも大きいだろう。

「コロナ後」はどうか。通勤客減少が続けば、相対的に着席保証列車の価値は下がる。これ以上の新設は抑えられるかもしれない。その反面、一般の列車より「密」が避けられるため人気を集める場合も予想できる。抑制か拡充か、難しい判断が迫られる。

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