積極投資が無駄に?「曲がり角」の鉄道会社経営 コロナ禍後の通勤・通学、観光需要はどうなる

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観光列車についても、同じことが言える。東武鉄道のSL列車や、嵯峨野観光鉄道、立山黒部アルペンルートなど、観光利用がすべてのような交通機関は、非常事態宣言下では全面運休を余儀なくされた。今後、移動自粛要請の緩和により、これまで抑制されていた反動が生まれ、観光・レジャーに人が殺到するかもしれない。観光業にとっては、それが望ましかろう。

観光列車への影響は通勤輸送以上に不透明(筆者撮影)

ただ、新型コロナウイルス感染症は、完全に制圧されたわけではない。まだ、十分な注意が必要だ。通勤電車ほどではないが、観光列車も利用客の密集を避けなければならない。乗車する利用客の数を抑えての運行も見込まれ、収益面での不安がついてまわる。また、再流行などが起こるとすぐ、観光地からは人が退いていくに違いない。こちらにも設備投資への不安がある。

地方鉄道の今後はより深刻

一方、地方ローカル鉄道の事情はより厳しい。主な利用客層である、高校生の通学需要が、この間、ほぼすべてなくなってしまったためだ。

「コロナ後」、どうなるのかは、やはり通学需要がどこまで復活するかにかかっている。リモート授業や時差通学などが行われているが、リモートワークと比べ、普及には不透明な部分がある。同世代の若者を集めて教育する効果は大きいであろうから、通学需要は消えないという楽観的な見方もある。

反面、ゆるやかと見ていた少子化が、予想外の事態で一気に来てしまったも同然という見方もできる。大手民鉄以上に、先行きの見通しは明るくない。

現状でも、第三セクター鉄道など、公的資金が注入されている地方ローカル鉄道は多い。ほぼすべての会社がそうだと言ってもよいぐらいだ。

今回の感染症流行では、営業自粛などによる各種の損失を公的資金で補填する方針が、個人事業主から大企業まで取られている。鉄道会社も然りで、線路や車両など営業に必要な装置を維持するため、地元が必要と認める鉄道ならば、自治体による公的な負担を増し、公営化への道を進む鉄道も出てくるだろう。一部の会社においては、今後の経営再編は避けられないとみている。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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