こうした財政改革により、ドイツ全体の財政収支は2012年以降、黒字に転じ、8年連続で黒字を続けた。その単純合計は約2220億ユーロ(約27.3兆円)にのぼる。ドイツ全体の政府債務残高は、2014年末の2兆5043億ユーロ(約308兆円)から2019年末には2兆3509億ユーロ(約289兆円)へと1534億ユーロも減らしていた。日本のように、政府債務残高が減らなくても、政府債務残高対GDP比が低下していればよいという、悠長な国とは次元が違う。
ここには、ドイツが政府債務を自国通貨建てでは負えない(ユーロ建てで負うが、ユーロの発行権は欧州中央銀行が持つ)という発想は一切ない。あるのは、財政黒字によって将来の増税が避けられるという論理である。
お金に色はついていないものの、8年連続の財政黒字の単純合計約2220億ユーロのうち、1534億ユーロを政府債務残高の削減に充てたとみれば、財政収支の黒字のうち約7割を政府債務残高の削減に充ててきたと言える。
債務残高削減は将来の増税回避につながる
政府債務残高の削減は、将来の増税を避けることにつながる。ただ、現世代への恩恵はどうか。今の第4次メルケル政権内でも、財政黒字の還元策をめぐりコロナ前から意見が割れていた。第4次メルケル内閣はSPDも連立与党であり、CDUは法人税や所得税の減税を求める一方、SPDは公共投資拡大を主張していた。
ここにも、メルケル首相やCDUの志向が表れている。財政黒字の還元として、メルケル首相やCDUは、政府規模がより大きくなることを避けることに腐心している。前掲の財政改革で社会保障を含む歳出削減を徹底したことと共通している。
そうした前提のうえに、今般のドイツの消費減税がある。CDUは、コロナ前には法人税や所得税の減税を財政黒字の還元策として打ち出していた。さらに、日本ではあまり報じられていないが、コロナショック対策として、付加価値税率をめぐる議論は既にあった。連邦議会では、レストラン等の外食への軽減税率適用(ドイツでは外食は標準税率)について審議が継続している。
ドイツの消費減税は、財政収支が黒字になるほど税収を多く得ていたから減税するという話である。ただでさえ財政赤字なのに減税してもっと財政赤字を膨らますという話とは次元が違いすぎる。加えて、ドイツでは、歳出削減を徹底した後で減税するという話である。医療費を含む歳出削減を批判しつつ、減税に賛成するという辻褄の合わない話ではない。
ドイツの消費減税の真の狙いは、経緯をきちんと踏まえて理解する必要がある。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら