それでも、メルケル政権は消費減税をしなかった。この頃、ドイツ全体の財政収支(対GDP)は2009年にマイナス3.1%、2010年にはマイナス4.4%と赤字に陥った。これにより、政府債務残高の累積に対処すべきとの機運が高まり、2009年6月には、財政収支均衡原則を盛り込む基本法(憲法)の改正が行われた。この原則は、連邦政府および州政府の予算は、原則として公債発行なしに均衡させなければならない、とするものである。
リーマンショック直後に実質経済成長率が大きく落ち込んでも、ドイツは付加価値税を増税したまま税率を下げなかった。その直前に財政赤字が続いて政府債務残高が累増していたのが、当時のドイツ財政だった。
失業給付抑制や年金支給開始年齢を引き上げ
財政収支均衡原則が盛り込まれた基本法の下、メルケル政権は財政改革に着手した。
歳出面では、長期失業者に対する失業給付の抑制、長期失業者に対する年金保険料支払いへの補助の廃止、子供を持つ親に対する手当の給付抑制、2012年以降に年金支給開始年齢の65歳から67歳への段階的引き上げ、公的医療給付の財源である連邦補助に法定上限を設けた総額管理、4万人規模の連邦国防軍兵士削減を含む防衛費の抑制、各省の裁量的経費の抑制といった策を実施した。
メルケル政権下では、社会保障支出の伸び率は名目経済成長率を下回っている。医療費は、診断群分類(DRG)と呼ばれる患者分類に応じて医療費を定額払いにする制度の下、定額払いを徹底して医療費を削減してきた。
日本でも、DRGに相当するとされる診療群分類包括評価(DPC)があるが、これは定額払いと出来高払いの混合で、出来高払い部分で医療費が膨張する恐れがある。入院医療にはDRGが適用されたが、外来医療では「家庭医中心医療」を掲げ、最初は登録した家庭医に診てもらい、その判断に従って専門的な医療を受ける仕組みを推進した。家庭医を含む開業医は地域ごと、診療科ごとに定員制をとっており、開業医の制限を徹底している。
他方、メルケル首相やCDU幹部らは、付加価値税率のさらなる引き上げには否定的だった。徹底した歳出削減に軸を置いて財政赤字を削減しつつ、付加価値税率を19%に維持し続けた。
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