「被害者支援」を軽々しく口にする人たちの特徴 福祉には熱意や情熱よりも大切なものがある
対人援助を志す者については、熱意や情熱より知識とスキルが重要というのは強調してもしすぎることはありません。これは先ほどのMavranezouli氏の研究結果とも一致します。フォローやケアができるスキル、専門資格もないのに迂闊に被害体験を聞き出してしまい悪化させる。専門性がない人の実践よりも何もしないことは最善解なのです。専門的に学んでいない人が気軽に対応できる分野ではありません。
自分自身のトラウマ反応にどう対応するか?
私は児童虐待の社会的コストを研究しているため、SNSに書き込む行為も金銭価値に変換できます。
凄惨な事件が起こったとき、SNSで過剰に反応する人がいます。事件発生直後で背景もわからない、でもつい反応してしまう。その姿をAIで追いながら、社会にこれほどトラウマがある人が多いのかという思いがあります。何か反応しなければ自分の思いが消化できない、自分の何か欠けたパーツを埋め合わせるように、書き込みをしなければならない、自分自身のトラウマ反応です。
SNSに書き込みをすると、攻撃されたりひどく落ち込むこともあるがやめられない。これらを「社会に対する自傷行為」といいますが、やはりこのようにトラウマがある人が多いのだというのが実感です(課題がある人がSNS匿名でつぶやいて発散するのが効果的という意見も一部あります)。そして義憤に駆られるトラウマ反応を利用する人に搾取されるのです。
それでもPTSDが関わる児童虐待やDVの支援をしたい方は、能力として下記の条件の基礎的スキルを身につけたほうがいいと思います。知識や資格を持っていても難しい分野ですが、スキルがない人よりはよりよい実践ができます。
これから援助者も厳しい状況におかれるこの分野に進みたい方は、ぜひスキルを身につけ、また児童虐待やDVのPTSDは海外が先進的に対応が進んでいること、それらにアクセスするにはある程度の学位が必須であるのでぜひ取得してほしいと思います(日本の役人や研究者が海外からよい情報をもらえないことの1つに、優秀でも学位がないことがあげられます)。
学歴や資格がすべてではありません。しかしスキルがなく実践するのはそれほど怖いのです。
そして今、これら分野を席巻しそうな勢いがあるものが、ハームリダクションとトラウマインフォームドケアです。これらは公衆衛生的視点がベースであり、アメリカでも児童虐待やとくにDVはCDC(アメリカ疾病予防管理センター)がかなりのエビデンスを出しています。つまりこれら領域は明らかに従来の古い領域から公衆衛生や疫学のサイエンスベースに変化してきているのです。
そしてわが国でも、児童虐待やDVの分野で公衆衛生や疫学の専門家が研究と実践を始めました。運動体中心の非科学的な分野から、データサイエンスベースの学問に被害者支援が動きつつあります。
さらに民間団体では、大学教員などの専門的な学術者や特定のスキルのある医師、MPH(公衆衛生修士)などがNPO団体などを立ち上げ始めました。虐待事例があっても過剰反応せず、ネットで「社会に対する自傷行為」を行う人に対しての予防的アナウンスまでしています。
自身の承認欲求の埋め合わせではなく、社会のために被害者のために活動している団体が増えてきています。このように専門性のあるNPOがこの領域で出てきたことは喜ばしいことであり、今後の活躍に期待しています。
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