喋りは上手いのに「営業ベタな人」に欠けた視点 マシンガントークは「お客の反発を買う」だけ

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自分の立場を強調して圧力をかけ、脅しを使うことで、相手に譲歩を迫るのです。その結果として、合意という勝利を勝ち取ろうとします。

しかし『ハーバード流交渉術』においても、このハード型交渉術の強引さは、相手の強引さを招き、交渉相手との関係を悪化させ、対策を枯渇させると警告しています。

「まわりの人との関係を悪化させてでも、とにかく交渉で勝てればいい」ということであれば、強気の交渉方法を維持するということも、その人の価値観かもしれません。ただ、そうでないならば、やはり相手の事情にも配慮し、納得を得た上で合意形成をしていくことを目指していくことになります。

そのためには、弱気であっても口ベタであっても、一向に構わないのです。

「しゃべりすぎ」は失敗の元

口達者であるという点も、交渉では考え物。しゃべりすぎが、失敗の原因になることがあるからです。

普段から自分の思っていることをよくしゃべる人は、その場で言う必要もないのに、自分に不利になることを、つい口に出してしまうことがあります。結果、交渉が悪い方向に進んでしまうのです。

ある企業の営業担当者が、新規取引獲得に向けて相手会社と交渉をしています。営業担当者はなかなか口達者で、交渉中も冗談なども交えてよくしゃべり、交渉はおおむね和やかに進んでいます。

何回か交渉をおこない、条件に関する話し合いもつめて、相手会社も、その内容で合意する姿勢を見せ始め、契約締結は目の前という状態です。ここで営業担当者は安心し、上機嫌で次のようにポロっと言ったらどうでしょう?

「いやぁ、ほんとよかったです。じつは私、先月、営業部に転属されたばかりで、全然契約が取れてなかったんですよ。どうしても今月中に1件は取らなきゃとあせっていたところなので、ほんとありがたいです」

『7タイプ別交渉術』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

これを聞いた相手は「担当者がまだ営業に慣れていないこと」「どうしても契約を取りたいと思っており、破談にする選択肢がないこと」「今月中という期限があること」を知ります。いくら話し合いが進んでいても、まだ契約は締結していないのです。

それなら、今月中という期限ギリギリまで引き延ばし、どうしても契約を取りたいと思っている担当者から、もっと有利な条件を引き出せそうだ、と考えるはずです。

つまり、余計なことを話してしまったために、自分にとって不利な情報までも相手に与えた結果、交渉が不利になっていくというパターンです。

次ページ【ケース2】「無口な客」と「おしゃべりな営業」の交渉
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