安倍政権の経済対策は日本を必ず弱体化させる この緊急策は何が根本的に間違っているのか

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では個別の産業のなかでも、エアライン(航空会社)の救済はどうすべきか。これは常に難しい問題である。コロナショックでもっとも大きな影響を受け、今後も受け続けるのがエアライン産業だ。観光産業の重要なプレーヤーであるだけでなく、エアラインは交通インフラであり、公共性が高い。

しかし、一方で、競争が激しく、特に国際線に関しては、代替が効くという意味では、公的に救済する必要性が常に議論される分野である。しかし、やはり、多くのエアラインの破綻の根本的な原因の一つは個別の企業のこれまでの経営にあると筆者は考える。

名門のタイ国際航空も破綻したが、同社にとって、コロナは最後のとどめに過ぎなかった。アメリカのエアラインも常に破綻を繰り返している業界である。したがって、日本においても、大企業支援として取り組むが、あくまで民間企業として扱うべきであり、公共性を考慮に入れるとしても、それがほかの大企業への支援と異なってはいけない。

また、観光業に関しては注意すべき重要なことがある。とりわけアベノミクスの主役として、経済成長戦略としての観光業を促進してきたが、これによる需要の急増の大部分は、バブル的であったということである。

合意を得られないかもしれないが、筆者に言わせれば、不要不急のどちらにも当てはまる、余暇としての遊びであった。海外から呼び込んだブームに乗った観光客は、一度経験すればそれで満足である人も少なくない。新しい国際間の移動制限、制約の下では、多くの人々には不要と思われ、二度とあのような「バブル観光客」が戻ることはないだろう。むしろ、日常につながる、地に足の着いた、滞在、留学、移住を中心として政策を考えるべきである。

ないものを追い求め、経済を行き詰まらせるリスク

この議論は、観光業にとどまらず重要である。なぜかというと、もともとコロナと無関係に、コロナショックが起きる前の景気水準からは、GDPが低下すると見込まれるからだ。

理由は2つある。第1に、2012年末から景気拡大が7年以上続き、景気はさすがにピークアウトのタイミングを迎えていたこと。第2に、金融緩和による大規模な金融バブルが起きており、その影響で、実体経済もバブル的に過大に膨らんでいたこと。

いわゆる爆買いというのもバブル的で一過性のものだが、過度な円安で日本製品やサービスの需要が過大になっていた。また異次元の金融緩和でカネが金融市場に溢れ、金利が異常な低水準で、株式や不動産がバブル的な水準に達していた面がある。これらの影響を受けて、実体経済も実力以上のGDPの水準となり、バブル的に膨らんだ部分を経済成長と呼んでいた。この部分は、当然剥げ落ちていく。したがって、コロナショック後、経済が通常の状態に戻っても、コロナショック前のGDP水準には戻らないということである。

問題は、これを「コロナショックによる需要の減少」と勘違いして(あるいは確信犯的にそう主張して)、GDP水準がコロナショック前に戻るように、需要喚起策を大規模に長期間継続する政治的な誘因があることだ。これも、経済を財政出動によって過熱させ、長期的な経済基盤を弱体化させる。

まとめると、今回の追加経済対策は、コロナショックによる需要減少を過大評価するだけでなく、コロナショック前のバブル的な経済状態の再来を無理に追い求めることによって、景気刺激策、需要喚起策が長期にわたって過大になり続けることだ。「ないもの」を追い求め、経済を行き詰らせるリスクが高いのである。これは、特に金融政策においてもっとも注意すべきことであるが、長くなったので、これば別の記事で議論することにしたい。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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