なぜなら、緊急事態宣言が解除されても売り上げが戻らないビジネスは、基本的には時間が経っても大きくは回復しないからである(後述するが、観光産業も同様だと考える)。前述のように、消費者の行動が変わってしまったことによってそのビジネスは成り立たなくなったのである。もしくは、もともと構造的に現在の消費者を捉えられておらず、苦しかったところへ、コロナショックの3カ月の売り上げ消失が止めを刺した、あるいは、消費者の行動変化が止めを刺した、というのが大半である。
「冷たい」とか「可哀想」といわれそうだがこうしたビジネスは、どうやっても売り上げは元には戻らない。そのビジネスに支援するのはほとんどの場合、無駄である。守るべきは、持続不可能なビジネスではなく、そこでの働き手である。経営者であれ、従業員であれ、彼らの生活を守る。次の就業機会へのアクセスを助ける。したがって、失業保険や生活保護、あるいはそれに近い取り扱いを充実させる。
新型コロナは「潜在的な退場者」の決断を後押しした
一方で「持続化給付金」は即座に終了する。持続性のないビジネスに持続化給付金はおかしいからだ。その代わりに、資金繰り支援融資は充実拡大する。返済期限はできるだけ伸ばすが、返済免除には当然しない。継続できる、する気力のあるビジネス、経営者を徹底的に全面支援し、そうでない経営者には退場してもらうことになる。
実際、東京商工リサーチのデータによれば、新型コロナによる直接的な影響による倒産は5月29日までで192社に過ぎない。一方で、2019年の休廃業・倒産の合計は約4万件だが、2020年には約5万件に増えると推計している。そして2019年の休廃業と解散した企業の代表者は84%が60歳以上で、39%が70歳代だった。
同社の調査は「休廃業や解散の理由の多くは、高齢化した経営者への廃業への決断をコロナが後押しした」、と分析している。また2020年5月31日の日本経済新聞の報道でも、高齢の経営者は「借り入れや保証融資を受けても返済が心配で、事業を続ける意欲がない。デジタル対応も難しい」と弁護士がインタビューに答えている。東京商工リサーチは、「新型コロナがもたらす変化に対応するには投資が必要だが、弱っている中小企業はそれができない」と分析している。
このように、新型コロナショックで廃業といっても、もともと廃業することが見込まれていた企業の決断が早まったケースが大半であり、持続化給付金が切れて、結局廃業してしまうのであれば、持続化給付金は意味がない。その予算を、失業手当と意欲のある企業への支援にすべてまわすべきである。
ここまでを改めて、整理しよう。マクロとしての需要喚起策は不要。持続化給付金も不要。企業、産業、ビジネスモデルの新陳代謝を促す政策を最優先にするべきで、それは無理に補助金をつけるよりは、意欲のある、自ら変化する、時代に対応する意欲のある経営者のいる企業を支援することにほかならない。その場合、徹底的に融資で支援する政策に資金を集中させるべきである。弱い中小企業に対しては、企業を救うのではなく、働き手を救う。それが基本方針である。
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