「里地里山ツアー」コロナ収束後を見据えた端緒 新機軸探る屋久島や埼玉県小川町の取り組み

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埼玉県小川町では、連休中の5月4日、「身近だが実は登ったことのない里山を土地の人に案内してもらう山歩き」が行われた。小川町飯田の会社役員、長倉正弥さん(42歳)が呼びかけ、地元の魅力発信や体験プログラムなどの企画運営を行う「おいでなせえ小川町」の共同代表、五十嵐康博さん(44歳)ら町内の数人が参加した。

長倉さんと五十嵐さんは、3年前に町内でワイン祭りの駐車場係を一緒にやったことで知り合った。2人ともハイカーに人気の「外秩父七峰縦走ハイキングコース」に足を踏み入れたことがなかった。長倉さんの自宅の裏山は、このハイキングコースの一部になっている。

この日の案内役は、その山にスギやヒノキの林を持つ小川町飯田の野口茂さん(67歳)。元自衛官で、退職後は自分の田畑で作業したり、山の7カ所にある土地でスギやヒノキの手入れをしたりしている。飯田地区を拠点に環境教育などを行う「小川町里山クラブ “You-You”」のメンバーでもある。

山の神がいるという石尊山へ

一行は隣の笠原地区の山の神がいるという石尊山を目指した。標高344mと高くはないが、鎖場など傾斜のきつい場所もある。

「祖父母に聞いた話だが、明治31~32(1898~1899)年ころには、地元飯田村の家数は64軒だった」「このあたりの人たちは戦後、農業と養蚕、昭和35(1960)年くらいからは建設現場の日雇いで生きてきた。ガスが普及するまでは、みなが薪を採っていたので、里山はきれいに維持されていた」。野口さんの道々の説明に、地区のひと昔前の姿が目に浮かぶ。

野口さんの山には、両親が植えたヒノキが高々と育っている。枝打ちなど日々管理しているだけに、山の木々に詳しい。表面が硬く、ごつごつしているクヌギ、灰色っぽいコナラ。山のふもとの川沿いは、スギ林になっている。

「戦後食糧難のときには、ここは全部田んぼだった。水が多いのでスギに適している」。山の木を必要な人に分けることもある。野口さんの山のヒノキの間伐材は、小川町のワイナリー経営者が山まで受け取りに来て運び出し、建物の一部になった。家の中に置くと消臭効果がある竹炭も作っては人に分けている。

五十嵐さんは小川町や埼玉県寄居町の観光会社に約20年勤め、地元の人を静岡県など全国の観光地に案内するツアーの仕事をしてきた。その後独立し、最近は「人口が減る小川町から外に人々を連れ出すのではなく、人口が多いところからこの地域に人を呼び込むことはできないか」と模索する。5月13日には、「着地型旅行業」の登録申請を行った。

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