「里地里山ツアー」コロナ収束後を見据えた端緒 新機軸探る屋久島や埼玉県小川町の取り組み

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五十嵐さんは考える。「里地里山を歩くツアーを含め地元の魅力を楽しむ企画に人を集め、参加費も集め、野口さんのような地元の案内役に金を払い、その金が山の保全をはじめ地域の中で回っていくようにできないか。無理して借金したり、交付金や補助金をあてにしたりせずに、民間で運営する仕組みをどうやったら作れるだろうか」。

昨年夏、小川町議会議員になった。「客集めはホームページをつくればよいというものでもない」。仲間づくりを進め、試行を重ねる。屋久島では、集落や協議会が準備・練習、参加者モニターの分析、里歩きを行う他地域の訪問を重ねたことが、里めぐりの「成功」に結び付いた。「夢物語かもしれないけど実現したい」。五十嵐さんの決意は固い。

(写真左)自らが枝打ちや間伐をしたヒノキの美林の中に立つ野口さん、(写真右)石尊山の頂上は、曇っていた(撮影:河野 博子)

再考迫られるインバウンド団体客頼みの観光

観光庁によると、2020年1~3月期の訪日外国人旅行消費額は6727億円だった。2019年1~3月の1兆1517億円に比べると、41.6%の減となった。2019年通年でみると、訪日外国人による旅行消費額は4兆8135億円と過去最高額を記録していた。2019年の日本人国内旅行消費額は21兆9114億円だから、旅行者全体が落とす金の5分の1近くを訪日外国人が担っている。

しかし、新型コロナによる世界の感染拡大は長期戦を強いられる、という見方が強まっている。すでに第2次感染拡大の兆候を示している国も出ており、この冬にはまた厳しい状態になるとの予想も聞かれる。

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観光の分野ですぐに外国人旅行客の増加を望むのは難しく、当面は国内の旅行者が業界再活性化のカギになる。一方で、離島など医療事情が十分ではない場所では、感染対策の徹底も必要だ。大勢の団体客ではなく、個人もしくは少人数のグループを客として迎える屋久島の里めぐりや小川町で模索する里山ツアーなどは、無視できない試みとなってくるのではないだろうか。

団体客から個人客へというトレンドは、とっくの昔に起きた変化だが、実際には対応できていない地域もまだ多い。自然志向を持ち、生活文化に触れたい、体験したいという人々も増えているのに、一般の旅行者が小さなツアーを選び、リーズナブルな価格で楽しめるという状態にはない。昨今は、1泊1人10万円以上といった価格の旅館や列車の旅など富裕層をターゲットにした企画ばかりが目立つ。

夏になると、旅に出たくなる人は少なくない。少人数、安全で適正な費用で自然や地域の生活文化に触れたい、と思う人々も増える。そうした需要に応えた里地里山ツアーが各地に広がれば、活気が出てくるだろう。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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