コロナ乗り越えた男が創る日本営業大学の船出 中田仁之学長が開拓する元プロ選手達の未来

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子どもの頃から野球に打ち込み、野球以外の社会経験がほとんどない元プロ野球選手にとって、一般企業は異世界と言っても良い。

特に最近は、年功序列が崩れ、実力主義になっている企業も多い。上意下達の文化に慣れた元選手の中には適応できない人も出てくる。パソコンなど、ビジネスをする上で習得する必要がある技術や知識もある。これらが障壁になることもあったのだ。

突如、新型コロナ禍に見舞われる

日本営業大学は、そういう元アスリートと一般社会のギャップを埋めるバッファのような役割を果たそうとしている。
筆者は、いくつかお試し講義も聞いたが、サラリーマン社会のビジネスマナーや上司との関係の築き方、さらにプレゼンテーションスキルなど、実践的な内容が多かった。

開校前の今年2月に行われたプレ講義の様子(筆者撮影)

プロ野球を引退した元選手の中には、名刺の渡し方、新幹線や飛行機のチケットの取り方、ホテルの予約の仕方も知らない人が結構いる。

こうした選手には、サラリーマンにとっては「常識」になっていることも一つ一つ身につけなければならない。

企業とのマッチングも重要だ。知人の紹介などで、安易に入社してから後悔する場合も少なからずある。先入観なしで企業と元選手が言葉を交わし「相性」を確かめ合うことも大事なことだ。

開校式では8人の第一期受講生が紹介された。前出の元日本ハム森本龍弥、森山恵佑の他、元DeNA水野滉也、元中日の橋爪大佑、さらにはプロテニスプレイヤーとして世界4大大会にも出場した藤原里華の名前もあった。

新型コロナ禍は、日本経済の屋台骨を揺るがそうとしている。日本営業大学はその大波をもろにかぶった。元アスリートを取り巻く境遇も不安定になっていくだろう。

しかし、そういう時代だけに、日本営業大学の役割はさらに重要になるかもしれない。

日本営業大学の開校式にリモート出席した元アスリートや、講師、企業はたまたま集ったに過ぎないが、先が見通せない時代にあって、単なるマッチングを超えて、知恵を出し合い、将来を模索する「コミュニティ」「運命共同体」的なつながりになっていくのではないかと思う。

アスリートにとっても、企業にとっても、一人で悩んでいるよりも、こうした「場」「機会」がある方が心強い。嵐の中の船出になったが、日本営業大学に注目したい。

(文中一部敬称略)

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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