年金財政にとってインフレが好都合な理由 コロナ後の物価動向には注意が必要になる

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では、コロナ後もデフレが継続する場合はどうか。2013年以降の大規模金融緩和に加えて、コロナ対策として未曽有の国債増発や資金繰り支援のための流動性供給を行っている。それでもなお、デフレが継続するということは、その流動性は活用されずにどこかに滞留しているのだろう。

デフレが継続すれば、マクロ経済スライドは毎年のように発動されず、年金給付の実質価値は維持され、今の年金受給者にとっては好都合だ。ただ、その分だけ年金積立金が多く取り崩されて給付に回り、年金財政は一層苦しくなる。

コロナ後の物価動向に要注意

加えて、デフレが継続するほど経済活動が不活発であることから、株価なども低迷するだろう。そうなると、今ある年金積立金の運用益も多くを期待できない。年金給付には、年金積立金の運用益も財源として使うことを想定しており、運用益が少なければ年金財政もその分苦しくなる。

年金財政が悪化していけば、デフレ下でもマクロ経済スライドを毎年発動できるようにする制度改正が提案されるかもしれない。そうなれば、年金財政を維持するため、年金給付額は抑制されることになる。

高齢者からすると、若いころに真面目に年金保険料を払ったのだから、きちんと年金をもらえて当然と思うかもしれない。しかし、現に賦課方式的な年金制度である以上、払った保険料に見合う年金給付が必ずあると言えないのが、今の年金制度である。

年金財政にとっては、コロナ後はインフレに転じた方が維持しやすい。それは、今の若い世代の老後を考えても、国が公的年金でインフレをヘッジしてくれる分、好都合である。

ただ、気をつけるべきは、インフレになったとしても、すべての問題が解決するわけではないことだ。インフレの初期には、低所得者ほど物価上昇に賃金上昇が追いつかず、生活難になることがありえる。医療財政も、2年に1度行われる診療報酬の改定が、物価上昇や賃金上昇にタイムリーに連動せず、ほころびが出てくるかもしれない。コロナ後の物価動向がどうなるかは、今後も注視する必要があろう。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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