こうした関心を踏まえ、上記(1)~(4)の論点について順次述べてみたい。
「都市集中型」から「分散型システム」への転換
コロナウイルスの感染拡大とその災禍が際立って大きいのは、あらためて言うまでもなく、ニューヨーク、マドリード、パリ、ロンドンそして東京など、人口の集中度がとくに高い人口数百万人規模の大都市圏である。
これらの極端な「都市集中型」地域は、ほかでもなく‟3密”が常態化し、環境としても劣化している場合が多く、感染症の拡大が容易に生じやすく、現にそうしたことが起こったのだ。
一方、後で格差の関連でも述べるように、ドイツにおいて今回のコロナによる死者数が相対的に少ない点は注目すべき事実であると私は考えている。
ドイツの場合、国全体が「分散型」システムとしての性格を強くもっており、ベルリンやハンブルクのような人口規模の大きい都市も存在するものの、全体として中小規模の都市や町村が広く散在しており、「多極」的な空間構造となっている。
そして、新型コロナの感染拡大が明らかにした課題をまるで予言するかのように、先ほどふれた拙著『人口減少社会のデザイン』の基軸をなしているのは、これからの日本や世界が持続可能であるためには、「都市集中型」のシステムから「分散型システム」への転換を図っていくことが急務であるというAI(人工知能)の分析だった。
この分析の基礎となる研究を、私は2016年に京大キャンパスに設置された日立京大ラボとの共同研究として行った。
そこでは、AIを活用して2050年の日本に関する2万通りの未来シミュレーションを実施したのだが、そのシミュレーション結果において、東京一極集中のような「都市集中型」のシステムよりも、「地方分散型」と呼びうるシステムのほうが、人口・地域の持続可能性や格差、健康、幸福といった点において優れているという内容が示されたのである(しかも、都市集中型か地方分散型かに関する、後戻りできない分岐が2025年から2027年頃に起こるという結果が示された)。
このAIシミュレーションは、直接的に今回のコロナのようなパンデミックを扱っているわけではないが、医療システムに関する諸要因はモデルの中で含まれている。そして今回のコロナ禍は、「都市集中型」社会のもたらす危険度の大きさを白日の下にさらしたと言うべきだろう。
日本の状況についてさらに踏み込んで考えると、しばしば誤解されている点だが、実は日本において現在進みつつあるのは‟東京一極集中”ではない。
すなわち、札幌、仙台、広島、福岡等の人口増加率は首都圏並みに大きく、例えば2010年から2015年の人口増加率は、東京23区3.7%に対し福岡5.1%となっていて、福岡の人口増加率は東京を上回っている。
興味深いことに、今年3月に発表された令和2年地価公示でも同様の傾向が示されており、上記4都市の地下上昇率は平均で7.4%となっており、東京圏の2.3%を大きく上回っているのだ。
そしてコロナとの関連で言えば、全国で初めて(法的根拠に基づかない)「緊急事態宣言」を出した(2月28日)のが北海道であったのは記憶に新しく、また東京圏と大阪圏以外で緊急事態宣言(4月7日)の対象となったのは福岡県だった。
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