「能・狂言」の趣を知らない人に教えたい超基本

教養として学びたいならまず能楽堂に行こう

また市民ホールや公会堂での初めての鑑賞も、同じくおすすめしない。誤解してほしくないのだが、それはあくまで、教養として能の本質に初めて接したい人へのメッセージだ。

薪能もホール能楽も、普及公演として、能楽堂が近くにない地域では、熱心に取り組んでいるので、大賛成なのだが、どちらかといえばリピーター向きだと考える。能を好きになった常連さんには、そうした場にどんどん出かけてほしい。

さあ、能楽堂の中に入ってみよう。

能楽堂に入ると、なぜか屋根が付いた能舞台がほとんどなので、みんなびっくりする。江戸時代までは野外にあったからだ。京都の西本願寺や東京の靖国神社ではいまでも野外に設営されている。

新潟県佐渡には20カ所以上もある。それが明治の近代化で建物の中に収められ、雨天でも鑑賞できるようにした。「能楽堂」という名称が登場したのもその頃からだ。

この名残で、いまでも屋内なのに屋根構造という舞台を、神社仏閣を作る宮大工が日本の伝統建築の技で創り上げた。舞台は解体して移動もできる。現在の横浜能楽堂は、東京根岸の加賀・前田家の舞台が東京染井(ソメイヨシノのふるさと)に移され、それが横浜で再建されたものであることからもわかる。

天下を統一した関白、豊臣秀吉は大の能ファンで、戦場となった先々に舞台を解体して持参し、諸大名が戦っている間、能を満喫したという記録もある。

能楽堂の静けさを体感する

さあ、初めて入る能楽堂。まず時間に余裕をもって早めに入場しよう。

順に客が入ってきて、次第にざわざわ感が広がってくる。しかし場内は意外に静かだ。BGMなどは一切流れない。場内アナウンスも控えめ。ホールや野外では味わえない貴重な体験をするだろう。これが能楽堂独特の「静寂さ」なのだ。慣れた観客はその静けさを心得ているし、能舞台の威厳あるたたずまいが、初心者には大声の会話を控えさせているのではないだろうか。

この静けさを体験してほしいのだ。わたしは見所(けんしょ(観客席))で解説をする機会が多い。そのおり「みなさん、ちょっと、聞いてください」と言って、しばし沈黙する。そ
して「聞こえますよ、シーンという音が」と言って再び沈黙。劇画のような「シーーン」が大文字で目の前に浮かんでくるのがわかるだろう。

能楽はマイクロフォン、スピーカーを使用しない。むしろ衣擦れ、足の響き、かすかな笛の音色など、小さいけれど心に届く音を楽しむ芸能でもある。もちろん囃子方や謡の激しく大きな音の高揚感とともに。

いまスピーカーがないと書いた。でも能舞台には拡声装置ともいうべき工夫がほどこされている。

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