「能・狂言」の趣を知らない人に教えたい超基本 教養として学びたいならまず能楽堂に行こう
能・狂言は能楽堂で初体験したい
みなさんが能・狂言=能楽を初めて鑑賞するには、能や狂言を上演している市民会館のホールや一般の劇場、あるいは神社や城下町で企画される「薪能(たきぎのう)」に出かけるなど、行こうと思えば意外なほど、いま住んでいる町でのチャンスは多い。
薪能は夕刻、火入れ式などの儀式を見せ、すっかり日が落ちると、宵闇に篝火(かがりび)の明かりや音が一緒に楽しめ、行楽気分に浸れるし、写真好き、ブログが趣味の人には絶好の機会だと思われそうだが、私はおすすめしない。なぜかといえば篝火は、ほんのお飾り。実際は照明装置で照らし、スピーカーで拡声しと……能楽を「教養」として初めて味わうには、少し違うかな? と思える能楽イベントなのだ。
実は、苦い体験がある。私が能を愛するので、小学生だった息子たちを薪能に誘った。その結果、「2度と見たくない」と言われてしまったのだ。夏場の日暮れ時に火入れをし、狂言が始まる頃、暮れなずみ、周りで鳴いていた蝉の声がおさまり、いつしか虫の声に変わる……そんな素敵な体験を、子どもたちに味わわせたかったが、あいにくこの年の夏は猛暑だった。
芝生に日中の炎暑がこもり、汗が噴き出る、その上、西日が照り付け……あとはご想像におまかせする。(冷房が効いた)能楽堂に連れてゆけば、まだ、いい思い出ができたかもしれない……とこれは個人的な理由である。
もちろん、薪能という形式は伝統的なものなので、ぜひ見ていただきたいし、その土地ならではの味わいがある。たとえば『羽衣』。静岡市清水での海辺、有名な羽衣の松の前での薪能は富士山が遠望でき、内容そのままの素敵なシチュエーションで、見るなといっておいて褒めるのも変だが、ご覧になるならおすすめのひとつではある。でもできれば、能楽堂で能を何回か見て、少したってから体験してほしい。
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