東京電力でコロナ感染者はなぜ多発したのか 合計22人の感染が判明、電力供給に不安も

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東電の柏崎市内の事業所に勤務していた50代男性社員は、保健所が運営する「帰国者・接触者相談センター」に3度にわたって相談したものの、PCR検査に必要な基準に該当していないとして、体調不良から検査までに10日もかかった。

東電によるチェックが十分でなかったと思われる事例もある。柏崎刈羽原発内で勤務する広報担当の30歳代社員は微熱があったものの、翌日に解熱したことからその後の4日間出社していた。

【2020年5月1日20時02分追記】初出時の表現の一部を見直しました。

その後、PCR検査で家族の陽性が判明したことから本人も検査を受けたところ、同じく陽性であることがわかった。この社員の場合、解熱後に本人が体調不良を感じていなかったことから上司が出社を認めていたが、その判断が妥当だったかが問われる。

経営陣のリーダーシップが問われる

櫻井市長の指摘を踏まえ、東電は柏崎刈羽原発および新潟本部(柏崎市)における対策の強化を打ち出した。工事の中断と並ぶ対策の一つが、社員向けの医療体制の強化だ。原発構内で新型コロナウイルス感染が疑われる症状があった場合、東電の産業医が診察するとともに、必要に応じて東電の健康管理室に所属する医師や看護師がPCR検査のための検体を採取する。

また、社員の行動履歴を把握するためのアンケート調査を実施するとともに、社員には家族を含めて新潟県外との往来を原則禁止とした。さらに東電では柏崎刈羽原発所長名で協力企業にも県外との往来禁止を要請した。

東電グループで判明した22人という数字は、関西電力の7人、中部電力の0人と比べても多い。感染者の個別ケースを踏まえても、これまでの東電の新型コロナウイルス対策は十分だったとは言いがたい。

東電などの電力会社は、新型コロナウイルスなど感染症対策の特措法による指定公共機関として位置付けられており、電力を安定的に供給する重責を担っている。それだけに、今こそ小早川社長を初めとした経営陣の力量が問われている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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