安全保障上の牽制という観点から最も重要な行事は、実は5月9日に予定されていた戦勝記念日の軍事パレードであった。
ロシアは、ソ連時代から連綿と5月9日を第2次世界大戦の戦勝記念日として国をあげて祝うと同時に、赤の広場において軍事パレードを行って、最新兵器を含め自国の軍事力を対外的にもアピールしてきた。
本年は75周年ということで、世界各国の首脳を招待してのイベントを予定していたが、コロナウイルス感染の拡大により、日本は4月頭には首相の出席は断念せざるをえないとの判断をしていたが、ロシアはようやく4月16日、プーチン大統領が軍事パレードの延期を決定した旨を発表した。
その中で、プーチン大統領は、戦勝記念日は聖なる日であるが、人命もまた尊いとして、苦渋の決断であったとしているが、一国の宰相としてはやむをえない判断といえる。軍事パレードを強行することに、ロシア国民の理解が得られるとは到底思えない。
国民が冷静に対応できる国を作ること
最後に国家のレジリエンス(強靭性)について見てみたい。
このコロナに立ち向かううえで国民が冷静に対応することができる、そういう国を作ることこそ、政府にとって最も重要な課題と言えよう。
2011年の東日本大震災の当時、筆者は外交官としてロシアにいた。そのときによく聞いたのが、日本人はこれほどの危難において、整然として全く混乱を見せず、実に冷静にふるまっている、日本人はすごい、との評価であった。このような評価こそが日本の安全保障にとって最も価値のあるものだったと思っている。
というのも、福島原発事故にまで発展した国家的大惨事において、日本国民がどのように対応するのか、それをロシアを含む諸外国の機関は見ていたはずだからだ。おそらく彼らは、日本国民の強靭性を評価し、日本を敵にすることは得策ではないと考えたであろう。人は、危機のときにこそ、評価されるというが、それは国とて同じなのだ。
今の日本国内では5月6日を期限に緊急事態宣言が4月7日に発出されたものの、全国を対象に1カ月程度延期されることも避けられなくなった。政府の対応に批判的な国民の声があるが、敵はウイルスであり、冷静な対応が今一度求められる。
プーチン大統領がペチェネグやポロヴェツといった異民族の襲来を持ちだしたのも、ロシア国民の危機意識を高め、一致団結してほしいという思いからであろう。
プーチン大統領は、自身の大統領任期を延長しうる憲法改正の投票を4月にも実施予定であったがコロナ騒動のせいで延期せざるをえなかった。
コロナ騒動がある程度おさまったタイミングで改めて憲法改正論議がなされるであろうが、そのときに、国民が政権をどう評価しているか、それがプーチン大統領の目下の課題であろう。
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