そこで、この騒動を過去の異民族襲来に例えることで、国民の愛国心を鼓舞しようとの狙いがあるのであろう。プーチン政権が最も恐れているのは、国内において強い政権批判が起こり、支持率が低下することなのである。
ロシアという国は、外敵には強く、内部の敵には弱い。遊牧民、モンゴル、ポーランド、スウェーデン、フランス、ドイツといった国々からの幾度もの侵攻を、多大の犠牲を払いながらも一致団結して跳ね返してきた歴史を持つ一方、20世紀の100年において2度も体制崩壊を経験している。
ロシア革命による帝政の瓦解とソ連崩壊である。また、ソ連崩壊後にはチェチェン民族運動が高まり、深刻な内戦に発展したことも記憶に新しい。
軍事産業の健在を内外に示す意味
さらにプーチン大統領は、4月10日には、外国との軍事技術協力に関する委員会を主催している。この会合において、プーチン大統領は軍事産業の関係者を集めて、生産状況などの報告を聞いている。コロナウイルスの感染が広がる中、軍事産業の活動状況に強い関心を払うのは、一つにはロシアにとって軍事産業が主要な製造業であり輸出産業の一つであることが理由であろう。
ここでも、欧米の軍事企業に先んじてアフリカなどの新たな市場でシェアを拡大すべきとの考えを示しており、したたかさを感じさせる。ある国の兵器システムを構築し、兵器を独占的に供給することは、その国の軍事力そのものを支配することにつながるのである。
いま一つ考えられる理由は国防上の牽制であろう。ロシアにとってみれば、コロナ騒動で国家歳入の減少を含め国の足腰が弱体化する危険性がある中、敵国がロシアの様子を虎視眈々とうかがっているに違いない、弱みを見せれば襲ってくるはずだとの本能的な恐れがある。
それは、ロシア自身がそのような目でライバル国家や周辺諸外国を見ていることの裏返しでもある。コロナ禍を遊牧民の襲来に例えたのも同じ心理であろう。
コロナウイルス自身が襲来する異民族であると同時に、ロシアが弱体化した折には、敵が襲来する可能性があるということも含意されているのである。そのような中で、軍事力の根幹である軍事産業が健在であることを内外に示すことは、対外的な牽制となるのである。
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