こういったメーカーの開発部門では、相当な数の3Dプリンターが稼働している。吸入器などに使われる特殊形状パーツを作るのは朝飯前だ。また、カーボンファイバーパーツの製造部門では、自動カッティングマシーンなどを活用すれば、布類の切り出しも可能だ。明らかに、今までとは少し違った、未来に向けての連帯が生まれている。
世界を代表するレースカー・コンストラクター、ダラーラ社のアンドレア・ポントレモリCEOも、その連帯の輪の中にいる一人だ。
「状況を的確に把握して、いま何をすべきか判断する。そして、速やかに方向転換することが今の私たちにとって必要なことです。われわれのイタリア本社では、人工呼吸器とマスクに関するプロジェクトに焦点を当て、北米法人では地域社会を守るために医療機関用の衣料生産を手伝うプロジェクトを速やかに立ち上げました」
現在、同社本来の自動車産業としての稼働は、当地にある同業他社と同様に止まったままだ。しかし、3月から開発部にある3Dプリンターで人工呼吸器接続バルブを製作するプロジェクトを立ち上げ、医療機関に提供し続けている。
それだけでなく、そのCAD(コンピューター支援設計)データをオープンソースとしてウェブサイト上にて無償提供した。地域に広がる自動車産業とタッグを組み、限られた人員を有効に使いながら、さらに多くの数量を必要とする医療機関に提供すべく、奮闘しているのだ。
ダラーラ社とはいかなる存在か
このメーカーのビジネスに対する姿勢は非常にユニークだ。イノベーティブでありながら、地に足がついた経営を行っている。モータースポーツという派手な、ある意味でエンターテインメントに関わる企業でありながら、限りなく“真面目”なのだ。
ダラーラ社は、1972年にスポーツカー・エンジニアであるジャンパオロ・ダラーラによって創立されたレースカーの設計・製造コンサルタント会社である。1936年に当地に生まれたジャンパオロは、幼少期からレースの世界に強い憧れを持ち、レースカーを作るという夢に向けて邁進し続けた。そして、大学卒業後、その夢が叶い、フェラーリ、マセラティ、ランボルギーニ、といったイタリアを代表するすべてのスポーツカーメーカーに籍を置いて活躍した。
彼の設計者としての名声は世界中にとどろき、ダラーラ社は多くのレースカーを設計してきた。結果的に、北米で開催されるインディレースでは、すべての車両にダラーラ社のシャーシが採用されている。フォーミュラEや、日本で開催されるスーパーフォーミュラも同様だ。今や世界のレース界はダラーラ社なしには成立しない状況となっている。
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