勝つことの難しさを知って、苦悩の日々を繰り返してようやく、昨年末にプロ11年目にして初優勝した宮里優作。彼は、プロ仲間からも「いつ勝ってもおかしくない」「最高のスイングの持ち主」と言われ続けていた。
ゴルフ雑誌『アルバ』の取材で彼にインタビューしたのだが、とても奥深かった。
「いいショットを打てば勝てるとか、いいスイングをしたら勝てるっていう方向に走りすぎたときもありました。トレーニングもいろんなことをしすぎて、自分でコントロールできない。全部こうミックスになって、何がしたいかわからなくなってる状態もあったので(笑)。そこを1回リセットするのが難しかったですね」
さらにこう続けた。
「課題としていることのハードルを上げすぎたのも、よくなかった。小さいハードルをつねに越しとけばいいのに、わざわざ自分でハードルを上げすぎた。目標はホントに近め、近めに設定していくことがいちばん大事ですね。それをクリアして、よし、できた! というのが自信につながります」
そういえば、こんな和歌があった。
「思ふなよ 浮世の中を出で果てて 宿る奥にも宿はありけり」とは、『新古今和歌集』の中にある慈円という僧侶がうたったものだ。浮世を出てしまったと思っても、そこが終わりの宿と思うな。まだ奥には奥があると思わなければならないという意味合いである。
これは仏教の『法華経』の中に「化城喩品(けんじょうゆほん)」というのがあって、途方も無い悟りの道を歩むのは大変だから、まずは大きな目的達成のための方便で、仮の城を作り上げて気力を取り戻させるということである。
そして「たくさん勝つには、たくさん負けないといけない」ということも学んだのだという。
これは一般アマチュアにも通じることだし、実生活、仕事でも同じだと思う。宮里はまた、こうも言った。
「ラウンドから目標を立てることも大切だと思いましたね。『今日はこれをするんだ』って、それが決まってさえいれば、迷走しないわけでしょう。それが決まってなくて、何をしようか明確じゃないままスタートすると、漫然として、結局、いいスコア、成績にもつながらない」
かつて中部銀次郎さんが言った「試合の初日でスタートをする前に、自分のポジショニング(立ち位置)を明確化するのが大切」という言葉と重なる。別の表現をすれば、その日の18ホールのデザインができているか。今の自分の状態なら、どういうシナリオでいくことが最善の方法なのか。無謀でも無茶でもなく、冷静な判断でイメージしてスタートすることが大切だというのである。
宮里優作は、今シーズン「自分がいちばんワクワクしている」と言った。彼の化城を重ねた最終目標は、どこにあるのか楽しみである。
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