ウイルスを宿す恐ろしい生きものに見えるコウモリ。ドラキュラ城の周りを飛んでいる絵や写真、ハロウィンのコスチュームにもおどろおどろしいイメージがある。しかし、実は身近な生きものだ。夕暮れ時になると、都心でもその姿はみられる。世界の哺乳類全体の種の数のうち、コウモリは20~25%を占める。花粉を媒介する仲間もいて、アボカド、マンゴー、ドリアンなど果物の送受粉に貢献している。
なぜコウモリは自然宿主として、多くのウイルスと共存していられるのか。ニューヨークタイムスの1月28日付の記事は、その種明かしを試みている。記事の概要はこうだ。
「コウモリは遠距離を飛ぶ。そのとき、かなりのエネルギーを消費する。その際に細胞が壊れ、DNAの断片が体内に飛び散ることがあり、体がそれを侵入物とみて追い出そうとして免疫機能が働く。その1つの炎症反応は体にかなりの負担になる。反応を抑えるため、コウモリの体からは炎症反応に係る遺伝子が一部なくなっている。こうしたことから、コウモリの体内には、ほかの動物より多くのウイルスが存在するのではないか」
SARS、高病原性鳥インフルエンザ、ウエストナイル熱、エボラ出血熱、ニパウイルス感染症、マールブルグ病、ラッサ熱(厚生労働白書、国立感染症研究所HPより)
武漢の研究施設をめぐる疑惑
新型コロナウイルスをめぐっては、今年1月ごろから、生物兵器論が流布されたり、研究施設からの流出を疑う指摘が出たりした。疑いの目を向けられたのは、中国科学院の武漢ウイルス研究所。新型コロナウイルスによる感染が発生した武漢の海鮮市場から約13キロメートル離れた場所にある。研究分野の第一に掲げるのは、新興感染症の研究。コウモリに関連するウイルス研究を続け、多くの論文を発表し、研究所のホームページで公開している。
中国の独立系メディア「財新」は、東洋経済オンラインに掲載された2月12日付の記事(新型コロナウイルス「生物兵器論」は本当なのか)で、詳細な検証を行い、「人工的に製造することは不可能」という専門家らの見解を紹介した。世界の科学者や健康当局の間でも、それは共通認識となり、疑惑は一時、影を潜めた。しかし最近、アメリカ国内で武漢ウイルス研究所をめぐる疑惑が再燃した。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら