コロナを天然痘と同列に考えてはいけない理由 コウモリ由来で人に感染した意味とは一体何か

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世界各国、各地が感染拡大の食い止めに必死に取り組む最中に、「感染の発生源」をめぐり、アメリカと中国の対立が浮上している。中国武漢での新型肝炎発生の経過や中国政府の対応については調査検証が必要で、国際社会の協力で実施されることが望ましい。

トランプ政権が武漢ウイルス研究所への疑惑をことさら強調するのは批判そらしなのか(写真:ロイター/Tom Brenner)

しかし、数歩引いてみたときに、新型コロナウイルスによる感染拡大が示すものは何かについて、環境生態学者や研究者の見方はほぼ一致している。

著名な人類生態学者、ジャレド・ダイアモンド氏は、中国では今回の感染拡大で野生動物市場が閉鎖されたが、生薬の原料としてまだ野生動物の取引が横行しているとして、中国の野生動物市場を問題視する(読売新聞4月10日朝刊インタビュー)。

世界的に知られる霊長類学者のジェーン・グドール博士は、新型コロナウイルスのパンデミックは、「人類が自然を無視し、動物を軽視した結果」として、森林破壊やアフリカのブッシュミート(食用の野生動物の肉)やアジア、中国の野生動物市場、世界各地の集約的な養鶏、養豚などを批判した(4月12日付、AFP通信によるインタビュー)。

「根本原因は人間による環境破壊」

国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室室長の五箇公一博士は月刊『中央公論』5月号のインタビューで、「根本原因は、人間による環境破壊と言っていいでしょう」「野生動物たちの棲みかを人間が破壊することにより、野生動物が減少し、棲みかを奪われたウイルスたちが新たなる宿主を求めて侵略者である人間にとりつき、新天地である人間社会で感染を拡大しているのです」と語っている。

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天然痘は1980年に根絶された。天然痘ウイルスは人間のみに感染する。であるからこそ、WHO主導の「世界天然痘根絶計画」により、地上から一掃された。人獣共通感染症のウイルスの場合、人間社会からどうにか追い出しても、野生生物の中で維持され、生き続け、再び何かのきっかけで人に感染する。

根本的には、人間は自然生態系、野生生物との関係を考え直す必要がある。ウイルス研究における動物の取り扱いや安全管理の方法も、そうした「見直し」の中に含まれてくる。新型コロナウイルスの発生、感染拡大についての検証なくしては、今後の対策強化はできない。その際に、こうした基本的な視点を忘れてしまうと、いつまでたっても人間はパンデミックの恐怖から逃れられないだろう。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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