新型コロナウイルスの感染者が増えてからというもの、佐藤さんは日々の保育で強い緊張を強いられている。
「密閉、密集、密接の『3密』を避けましょう」と言われても、保育園では子ども同士も、子どもと保育士もどうしても密着してしまう。もしも感染者が出るなど、何かあれば保育園が非難されかねない。
子どもが保育士に甘えて抱きつくことも多い。給食やおやつの時間にテーブルを離し、昼寝の時間も1メートル間隔で布団を敷くが、感染予防にも限界がある。
送り迎えにくる保護者の全員がマスクを着用しているわけではない。子どももマスクをつけていられるのは年長クラスくらい。
マスクの“調達”もストレスの元だ。不織布マスクを使い捨てするよう園から指導されるが、そのマスクの園からの支給はなく、調達は保育士自身に任されている。マスクは当然そう簡単には手に入らず、佐藤さんはやむなく手持ちの不織布マスクを煮沸消毒して繰り返し使う。
「ニュースで『8割、人との接触を減らさなければいけない』『stay at home』というコメントが流れるたびに、保育園では絶対に無理。園児も保護者も、保育士だって、家にいたほうがいい。けれど、今でも3分の1から半数近くの子が登園している。矛盾を感じる」
最近、高熱を出して休む子がいた。昼寝中にゲホゲホと激しく咳き込む子もいて、誰が感染していてもおかしくない。いつもは登園する親子を笑顔で迎えるが、今は「なんで登園するのだろう」「なぜ自治体は休園にしてくれないのだろう」と思ってしまい、笑顔になれないという。
とはいえ、自分から勤務を休みたいと言ってしまえば、その分の給与が減ってしまう。佐藤さんは「保育士の仕事にはやりがいがあるが、賃金は低いと諦めてきた。こんな思いをしながら働いてきて、もしここで賃金カットされるのであれば、保育士は完全に使い捨てだ」と感じている。
佐藤さんのような不安を覚える保育士は、決して少なくない。都内の別の認可保育園で保育士として働く横田理恵さん(仮名、30代)の認可保育園では、出勤しない日は「特別休暇」となり、非常勤の給与は6割、正職員は基本給のみ支給されることになった。
横田さんは子育て中のため非常勤職員として働いているが、幸い、夫の収入は安定している。「自分の子の面倒を見るため早番や遅番はできず、普段から同僚並みには働いていない。だから、私の場合はしかたがない」と受け止めている。しかし、同僚の独身の非常勤保育士は「給与が6割になったら生活できないから休めない」と悩んでいる。
こうした例は他にもあり、あちこちから「保育士が交代で休むよう命じられ、出勤しない日は給料が6割になると言われて困っている」という声が聞こえる。
「ノーワークノーペイ」は適切なのか
普段、保育士を比較的いい待遇で雇用している保育園でも、「ノーワークノーペイ」の考え方を取る園は少なくない。正職員の給与を減額したり、非常勤を休ませ無給にするケースが目立っているが、こうした対応はそもそも“適切”なのだろうか。
実は、こうしたコロナ関連による休業で賃金がカットされるのは適切な対応とはいえない。
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