コロナで保育士の「給与4割カット」は大問題だ 混乱の中、間違った運用が横行している

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また、「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」は、小学校や保育園に通う子のいる労働者(保護者)が、子の預け先が休業したことで休業を余儀なくされた場合の賃金補償となる。

認可保育園で働く保育士が子をみるため休んだとしても、認可保育園に満額の人件費が払われている以上は、公費の二重取りになる可能性がある。本稿執筆時点、内閣府は「正式見解を準備しているところ」としている。

内閣府はホームページに公開している「新型コロナウイルス感染症により保育所等が臨時休業等した場合の「『利用者負担額』及び『子育てのための施設等利用給付』等の取扱いについてFAQ」で近く、正式見解を公表する予定だという。

コロナで露呈した「委託の弾力運用」の問題

筆者が今回取材するなかで、「休むと賃金が6割になる」という傾向があった。これは、労働基準法の「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」(第26条)を意識して応用したものと見られる。

しかし、そもそも、今回のコロナ問題で国が「従前通りに給与を支払うことを想定して人件費を含む公定価格を減らさない」のだから、賃金カットは適切でないと言え、保育士は少なくとも委託費に計上されている賃金の100%を主張できるはずだ。コロナ関連での休業中の賃金額について、事業者の対応でブラック保育園かどうか見極められるだろう。

介護・保育ユニオンの相談員の池田一慶さんはこう指摘する。

「公衆衛生を守るという観点から、一義的には、国がどのような職種でも一律で休業手当をつけて給与を補償すべきだ。特に保育士についていえば、人件費を含む委託費が行政から100%出ているのであれば、きちんと休業補償しなければならない。一人ひとりの生活があるのだから、正規・非正規を問わず賃金は100%補償されるべきだ」

そして、保育に詳しい東京きぼう法律事務所の寺町東子弁護士はこう見る。

「委託費が100%支給されている以上、補助金という性質からも、(受け取った)人件費分はすべて人件費に充てるべきだ。委託費が適切に使われなければ補助金適正化法に違反する可能性もあり、違反すれば罰則もつく。

ただ、園によっては一部の保育士にだけ出勤を求める場合もあり、出勤する保育士は職場での感染リスクを負うが、現時点では公費から危険手当が出るわけではない。自宅待機を命じている保育士にも一定の賃金を支払ったうえで、一部を危険手当として出勤している保育士に充てるのも合理的ではないか」

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コロナ禍の混乱に乗じて保育士の賃金カットが行われるのは、筆者が以前から問題視してきた「委託の弾力運用」が根底にある。国の規制緩和によって2000年以降、私立の認可保育園では委託費の8割を占めるはずの人件費を他に流用できるようになり、行政から受け取った人件費を満額使わず、保育士が低賃金になる問題が起こっている。

介護・保育ユニオンの池田さんも「この10年、20年の間で見過ごされてきた委託費の弾力運用の問題が、コロナという緊急時に露呈した。早急に見直さなければならないだろう」と指摘する。

繰り返すが、今回のコロナ禍の影響で出勤しなくても給与が満額支払われるよう、国は保育園に従前通りの人件費を支給している。前述した「公定価格」は認可保育園のほか小規模保育園などにも定められており、処遇改善加算などの加算も含めて全てが支給される。もし給与カットされている場合は、勤め先の保育園に理由を尋ね、その理由によっては交渉したほうがいいかもしれない。

■主な相談先(あいうえお順)
介護・保育ユニオン
全国福祉保育労働組合(福祉保育労)
全国労働組合総連合(全労連)
全日本自治団体労働組合(自治労)
日本自治体労働組合総連合(自治労連)
日本労働組合総連合会(連合)
日本労働弁護団
小林 美希 ジャーナリスト

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こばやし・みき / Miki Kobayashi

1975年、茨城県生まれ。株式新聞社、週刊『エコノミスト』編集部の記者を経て2007年からフリーランスへ。就職氷河期世代の雇用問題、女性の妊娠・出産・育児と就業継続の問題などがライフワーク。保育や医療現場の働き方にも詳しい。2013年に「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ看護の質』(岩波新書、2016年)『ルポ保育格差』(岩波新書、2018年)、『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書、2018年)、『年収443万円』(講談社)など著書多数。
 

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