ネット選挙が”メディア変革”をもたらす 私が感じたメディアイノベーションの胎動

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そもそも、新聞社は実にアナログな体質が残っていて、私が記者を辞めた後に知り合ったITベンチャーの広報担当者からは、「どうして新聞社はプレスリリースをファックスで送るなど、紙ベースでやり取りするのですかね」と疑問をぶつけられた。企業の最新マーケティングを取材する経済部はまだしも、政治部や社会部はネットリテラシーが総じて高くない。

参院選の前、民主党のネット選挙戦略を取材した某放送局の記者から、「村井純って誰ですか?」と尋ねられた際には、“日本のインターネットの父”の名を知らないことに鈴木寛氏と苦笑しあった。私がよく存じ上げる某新聞社では、SNSでの情報漏洩を怖れるあまり、新人記者のフェイスブック使用を事実上禁止しているとも聞く。これでは「ネットと政治」を取材するのに必要なリテラシーが身に付くのか心配になる。

テレビが政治をダメにした!?

ただし、取材側が本腰を入れないのも理由がある。参院選後に投票先を決める参考にしたメディアを尋ねる新聞社の世論調査では、大半の回答者が「新聞を参考にした」「ネットは参考にしなかった」とする傾向が目立つ。

新聞社の自画自賛かと思いきや、ネット選挙サービスを手掛けるIT企業パイブドビッツの意識調査(2013年7月)でも、テレビ(24.3%)や新聞(23.3%)を参考にした人が半数近くに上る。ネットはといえば、候補者のホームページなど、8つも項目があったにもかかわらず、ネットのニュースメディア(9.3%)を筆頭に軒並み低調だった。都知事選でもこの傾向は変わらなかったように思われる。

「そもそも論」として、テレビや新聞が政治・選挙に大きな影響をどう与えているのだろうか。ネットの情報が既存メディアほどの信頼性を得ていないこともあるが、リーチ力が違いすぎる。わが国は、世界一の1000万部を誇る読売新聞があるなど新聞大国であり、テレビもNHK、民放キー局5社を頂点とした地上波の存在感が際立つ。

そうしたメディアパワーに加え、選挙時のアジェンダ(議題)設定の役割も大きい。これは1968年に米国の学者が「有権者が重要な争点とみる議題は、メディアに提起されたものだ」と提唱した仮説ではあるが、わが国の2005年の郵政選挙で、小泉総理がテレビのワイドショーで劇場型選挙を「演出」して圧勝した経緯を思い出せば、誰もが実感できるのではないだろうか。テレビの影響力を当て込んだ議員が、芸能事務所と契約をして番組出演を狙ったり、テレビカメラの前でだけ仲間内の批判パフォーマンスをしたりする話を耳にすると、鈴木氏の著書のタイトルではないが、「テレビが政治をダメにした」と感じてしまう。

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