安川電機「業績予想未定」が発する事態の深刻度 コロナで消え去る2020年前半の回復シナリオ

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主力のサーボモーターなどを生産する中国・瀋陽の工場については、「武漢の封鎖が解除されるなどサプライチェーン(部品供給網)が回復したことで、足元で受注が急激に戻り、対応しきれていない」(安川電機)という明るい兆しも出ている。

だが、欧米や日本国内では3月以降、コロナ感染が急拡大しており、大口顧客である自動車工場などが次々と休業に追い込まれている。

工作機械各社でつくる日本工作機械工業会(日工会)が4月9日に発表した3月の工作機械受注額(速報値)は、前年同月比41%減の773億円だった。受注額が前年同月を下回るのは18カ月連続となり、工作機械の受注が4割以上減少したのは、リーマンショック後の2009年10月以来のことだ。

業界関係者は、「3月は多くの企業の決算期末なので、本来なら多くの受注がとれるはず。だが、そのタイミングで新型コロナが襲ってきたので、収益への打撃が大きい」と肩を落とす。

テレワークしにくい業界特性も足かせに

テレワーク(在宅勤務)が難しい業界の特性も足かせになっている。工作機械は一般的に、加工する素材や加工方法に合わせてカスタマイズして製造される。そのため、営業担当者が顧客のもとに出向き、打ち合わせすることが重視される。産業用ロボットも顧客のもとへ出向き、システムの設計やプログラミングを行う必要がある。「対面での営業や作業が制限されている状況では、顧客も発注できない」(日工会)のが現実だ。

工作機械や産業用ロボットなどファクトリー・オートメーション(FA)の受注は、米中貿易摩擦や自動車市場の低迷を受け、2018年から悪化していた。それが、2019年半ば以降、米中貿易交渉が部分的に合意に達したことや、半導体や5G関連に向けた投資が増え始めていたことから、業界では2020年前半に受注が増加に転じると見込んでいた。

しかし、新型コロナの世界的な流行により、回復の期待は消え去った。新型コロナの収束が見通せない中、「リーマンショックの時はV字回復したが、今回は先の見えない不安が大きい」(日工会)。すでに「顧客の生産状況を考えると、底打ちの時期は2021年度まで持ち越す可能性も否定できない」(工作機械メーカーIR担当者)という声も出ている。

FA・工作機械業界の先陣を切って決算を発表した安川電機。同社の業績見通しは今後の景気を占う先行指標と言える。これから本格化する3月期決算でも、2020年の業績見通しに呻吟する企業が相次ぎそうだ。

田中 理瑛 東洋経済 記者

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たなか りえ / Rie Tanaka

北海道生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。報道部、『会社四季報』編集部を経て、現在は会社四季報オンライン編集部。食品業界を担当。以前の担当は工作機械・産業用ロボット、ドローン、医療機器など。趣味は東洋武術。

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