だが、民主党幹部が主張するように、近年の過剰な株主還元が現下の資金繰り難の一因となったことは確かだ。過去10年間に航空大手6社は473億ドル、ボーイングは434億ドルを自社株買いに支出している。配当支払いも合わせると、期間純利益を優に超す。そうして資本を取り崩した結果、アメリカン航空は2019年末時点で1億ドル強の債務超過に転落。ボーイングは「737MAX」の運行停止問題による赤字転落も響いて、83億ドルの債務超過となっていた。「潮が引いて初めて、誰が裸で泳いでいたのかがわかる」という、著名投資家バフェット氏の言葉どおりの状況だ。
株主還元のやりすぎで債務超過が続出
S&P500株価指数に採用された大企業500社で見ても、自社株買いの総額は2018年に8064億ドルで過去最高を記録。2019年も7287億ドルと高水準を維持した。配当と合わせると、期間純利益を上回る。その結果、2019年度決算期末現在で500社のうち24社が債務超過に陥っており、2014年の9社から増加傾向にある(キャピタルIQの集計)。先述のボーイングやアメリカン航空のほか、フィリップ・モリスやマクドナルド、スターバックス、ホーム・デポ、HP、ヒルトンといった有名企業も名を連ねる。いずれも近年の株主還元の拡大が目立っていた。
なぜ財務体質を犠牲にしてまで株主還元を拡大したのか。もともとアメリカでは、「会社の内部に余計なカネを置くな」という株主の言い分が強い。債務超過に陥ると銀行融資が受けにくくなる日本とは異なり、収益から投資額を引いたフリーキャッシュフロー(純現金収支)が黒字を維持していれば、債務超過であっても借金返済を迫られることは少ない。
近年は、株主還元増大を声高に要求するアクティビスト(物言う株主)の動きが活発化し、低金利下の運用難を背景に、年金基金など一般の機関投資家も彼らに同調する傾向を強めたことによる影響が大きい。
また企業側も、株価上昇に連動して経営陣の報酬が上がる仕組みを取り入れ、株価上昇につながる利益分配に積極的に応えた。トランプ政権による法人減税で浮いたカネや、歴史的な低金利で社債を発行して調達したカネも自社株買いにつぎ込まれ、それがトランプ政権発足から2020年2月までにNYダウが4割以上も高騰する原動力となった。
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