アメリカで高まる「株主至上主義」の反省機運 自社株買い禁止がコロナ危機支援策の条件に

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「BRTの声明の背景には、アクティビストのキャンペーン(投資先企業の課題を広く世に訴える動き)が高水準なことがある。取締役の派遣や事業の切り捨てなどの煩わしい要求が増えるのは、経営陣にとってうれしいはずがない。それで株主至上主義をやめ、ステークホルダーが大事と言い出した。アクティビストをはねのけるのに、従業員らをダシに使っているということだ」。大和総研の鈴木裕・政策調査部主任研究員はそう指摘する。

そして、「今回の危機で反省機運は高まるかもしれないが、これを機に日本企業のようにキャッシュを内部に溜め込む財務構造が好まれるようになるかというと、そうは思わない」と話す。

また、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの細尾忠生・調査本部主任研究員は、「ステークホルダー主義というのは、ESG投資の広がりのように、むしろそういうふりをしたほうが今は株価が上がるということに気づいたので、必要な調整としてやっている。アメリカ企業の本性が根本的に変わったわけではない」と見る。そのうえで、「株主主権、成長重視・キャッシュフロー重視というのはアメリカ企業のDNAに根差したものであり、今の危機的状況を乗り越えれば本性が蘇ってくるだろう」と見通す。

「ステークホルダー主義」への大転換ではない

つまり、ステークホルダー主義への大転換ではなく、社会の圧力や経営環境の激変を受けて、株主至上主義の行きすぎた部分を自己修正しているということだ。決して安定重視、バランスシート重視の日本型を長期的に目指すということではない。

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自己修正を確かなものにするために、国によって規制が強化される可能性はある。過去を見ても、大きな危機の後には規制強化による軌道修正があった。

2000年代初頭のITバブル崩壊後には、エンロンなどの不正会計事件への反省から、企業の内部統制を強化するサーベンス・オクスリー(SOX)法が施行された。2008年のリーマンショック後には、金融危機の震源となった金融機関に対する規制がボルカー・ルールを含むドッド・フランク法で強化されている。

今回のコロナ危機の後も、株主還元や経営者の報酬、あるいは取締役会の構成などに何らかの規制がかけられ、株主と企業との関係、経営者と従業員との関係に修正が生じる可能性は否定できない。もし今秋の大統領選と議会選で民主党が勝利すれば、その確率は高まるだろう。いずれにせよ、未曾有の危機に直面したアメリカ企業の変化が注目されるところだ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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