保険嫌い夫婦が悩む「急病で生活破綻」の確率 健保のみでは補えない長期休職が増えている

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しかし、全国健康保険協会の傷病手当金の状況を見ると、「傷病手当金の受給原因」で最も多いのが「精神および行動の障害」です。全体の29.09%と、約3割がメンタルの問題に起因しています。そのほかの病気での受給は年々減っているにもかかわらず、「精神および行動の障害」は年々増えているのです。

また、傷病手当金の受給期間は平均164.06日(約5.5カ月)ですが、「精神および行動の障害」の受給期間については、212.16日と長期にわたっています。メンタルを病む人が増えて休職期間は長引いている、ということがうかがえます。厚労省が調査した「傷病別の平均在院日数」を見ると、気分障害(そううつ病)の患者は100日を超えて入院しており、統合失調症の患者になると約540日にも及んでいます。

傷病手当金の給付期間は最長1年半ですから、それを超過しても状況がよくならない場合は障害年金を受給することもできます。ただ、精神の病気の場合、受給できたとしても障害厚生年金の3級に認定されることが多く、今回の夫婦について、ねんきん定期便を基にその金額を確認すると、月5万円程度でした。

精神の病気によって大きな損失が生じる懸念もありますが、それを民間保険でカバーするとしたら、長期入院に備える医療保険か、就労不能保険が選択肢になります(ただし就労不能保険は、精神の病気では給付が受けられないものもありますので、注意が必要)。

精神の病気のほか、がんになった場合も、再発があったり、働き方の変更を余儀なくされたり、あるいは実費負担となる先進医療を使う可能性があることも考えると、経済的損失が大きくなりそうです。

国の保険だけでは「限界がある」と気づいた

ここまでの話で、夫婦は「うーん……」と考え込んでしまいました。国の保険である高額療養費制度や傷病手当金という手厚い保障があるから安心と思っていたところ、「限界がある」ということに気がついたからです。ご主人はいずれ独立起業も考えていますが、「国民健康保険には傷病手当金がない」ことも知り、驚いていました。「もう一度、考えてみる」とのことで、相談を終えました。

後日、「がん保険だけ加入を検討したい」と返事がありました。精神の病気は確かにリスクとして感じるけれど、万一そのような病気の傾向が出た場合は、「2人で協力して、ひどくならないよう対処していくことにした」とのことでした。

万一のときに、経済的にどのようなことが起こるかをきちんと知り、どうリスクに向き合うかを自ら判断されたことは、とてもすばらしいことだと感じました。「保険嫌い」の2人でしたが、保険には保険の役割があり、上手に活用すべきであることを理解してくれたこともよかったと思います。

山中 伸枝 ファイナンシャルプランナー、FP相談ねっと代表

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やまなか のぶえ / Nobue Yamanaka

FP相談ねっと代表。一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。アメリカ・オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・分かりやすい・やる気になる」ビジネスパーソンのためのライフプラン相談、講演を数多く手掛ける。大手新聞社主催のiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAセミナーの講師など登壇も多数。金融庁のサイトで、有識者コラムを連載。著書に『「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書』(インプレス)、『ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本』(翔泳社)、『100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法』(日本法令)ほか。公式サイト

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