コロナ「緊急事態宣言」でこれから起きること 総力戦体制による「独裁」のリスクにも注意

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また、感染爆発により医療機関が不足した場合は、都道府県は消防法や建築基準法、医療法などの規制を緩和した形で、臨時の医療施設を国民に提供することを義務づけられている。その際、必要があれば、都道府県は民間の土地や建物の強制的な活用も可能だ。

戦時体制に等しい特別の対応はこれだけではない。都道府県は国民生活の安定のために、医薬品や食品などの特定物資について、所有者への売り渡し要請や収用を行うことができ、それを国民に安価に譲渡することが可能だ。実質的な配給制度だ。また、埋葬・火葬の特例や金銭債務の支払い猶予、生活関連物資の価格統制、対コロナ戦争での医療従事者の死亡・負傷に対する損害補償なども定められている。

「平時への回復」こそが目標

言うまでもなく、こうした戦時体制の国家運営は、私権を制限するもので、国民生活にとっての劇薬だ。われわれは、こうした状況とどう付き合えばよいのだろうか。

考えを整理するうえで参考になる学説がある。ドイツの政治学者カール・シュミット(1888年~1985年)が論じた「受任独裁」という考え方だ。

シュミットは、独裁の今日的な意味を定義し、暴政などと区別した。具体的には独裁とは、現体制が存続の危機に脅かされたとき、それを守るという目標のために一時的に存在するものと定義され、ひとたび使命が完了すれば、独裁は無用となると説いた。そのとき、法的委任の手続きに基づき、権力の集中を行うタイプを受任独裁とした。

緊急事態宣言がもたらす状況も受任独裁のようなものだと考えれば、理解しやすい。

特措法では、緊急事態宣言の期間を最大で原則2年未満と定めるほか、不要になったら即緊急事態を終了させ、政府対策本部も解散させることなどが明記されている。また、特措法を改正し新型コロナを対象に加えた際、対策本部長は公衆衛生などの専門家の意見を十分踏まえて判断を行うこと、緊急事態宣言時には国会への報告を徹底することなどが、付帯決議として盛り込まれた。

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重要なのは、こうした手続きが実際にしっかりと行われるかを国民が監視すること。さらに言えば、国家の総力戦はあたかもそれが新たな「日常」になるかのように国民の心理を変化させるものであるため、これを機に、権力の集中や私権の制限などへ国民自体が同調圧力を強める危険もある。緊急事態宣言は強制力が弱く、要請ベースが多いが、逆にそのことが国民の間に必要以上の同調圧力を生む可能性もある。

インターネットやSNSは、世界の医療関係者や研究者などが情報を共有する強力なツールだが、一方で大衆の付和雷同を加速させかねないメディアであることも昨今、誰もが強く痛感することだろう。

あくまで平時への回復こそが目標であり、それを強く希求しながら医療従事者とともに対コロナ戦争を戦い抜くこと。それがわれわれが意識すべきことではないだろうか。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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