ロバート・アイガーが退屈な男じゃなかった訳 理想の上司であり理想の部下と呼ばれる所以
事実、アイガーがCEOに就任してからの15年のあいだにディズニーの時価総額は約5倍になった。ピクサーやマーベルの買収を通してオリジナルコンテンツは他社の追随を許さないほど充実し、凋落していたアニメーション部門からは『アナと雪の女王』をはじめヒット作が続く。上海ディズニーランドをオープンし、昨年には満を持して動画配信ビジネスにも参入した。実写映画でも『アベンジャーズ』シリーズが大ヒット。アイガーはタイム誌の2019年「ビジネスパーソン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。
今ではアメリカの実業界において伝説のCEOとなったロバート・アイガーだが、就任した当初は「古臭いスーツ族」であり「つなぎ」の経営者だと思われていた。アイガーは一流大学のMBAを取得したいわゆる「プロ」経営者ではない。大学を卒業してまもなく、ネットワークテレビ局のABCにスタジオの雑用係として入社する。そのABCがキャピタル・シティーズに買収され、またディズニーに買収されるという憂き目にあった。だが、買収されるたびに新天地で才能を発揮し、経験を積み、階段を登っていった。生え抜きの中の生え抜きである。
「あいつはいやなやつ」と誰も言わない
「勤勉だが退屈」だと思われていたアイガーだが、世間をあっといわせる大型買収を次から次に成功させていった。アイガーの仕事人としての人物像は、「理想の上司であり理想の部下」だ。人柄は前向きで誠実。野心はあっても謙虚に辛抱強く目の前の仕事に力を注ぐことができる。上司に忠実で、自分が失敗したら「自分がやりました」と正直に打ち明ける。責任を誰かに転嫁しない。
そしてリーダーとなってからは大胆に賭けに出る。過去より未来を見据える。既存のビジネスを壊すこともいとわない。そして、部下への気遣いと卓越した仕事は両立できると信じ、それを実行する。タイム誌はアイガーを評して「『あいつはいやなやつ』などという人が周りにひとりもいない、エンタメ界では稀有な存在」だと書いている。
アイガーがはじめて世間をあっと驚かせたのは、ピクサーの買収を成功させた時だろう。前任者マイケル・アイズナーとスティーブ・ジョブズの確執のせいで、アイガーがCEOに就任した時にはピクサーとディズニーはほぼ絶縁状態になっていた。だが、アニメーション部門の立て直しが急務と考えたアイガーは、周囲の大反対を押し切って就任早々にピクサーの買収に踏み切る。あのスティーブ・ジョブズの懐に飛び込み、彼の信頼を得て、仕事を超えた友情を築いていく。
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