キリン、「物言う株主」を退けても残る重い宿題 イギリス投資会社の株主提案はすべて否決

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波乱もなく株主総会を乗り切ったキリンHD。だがこれで同社の多角化戦略が安泰に進むのかと言えば、そうではないだろう。IFPは引き続き同社株を保有するとしている。IFPの弁護士によると、新型コロナの状況次第ではあるが、4~5月にも来日して長期戦略の見直しをキリンHDに求める考えだという。

不満を抱くのはIFPだけではない。特にヘルスサイエンス事業への投資に対しては、国内の市場関係者からも「投資額が大きい割に成果が今ひとつ」(みずほ証券の佐治広シニアアナリスト)と指摘する声があがっている。

ヘルスサイエンス事業の中核とするため、キリンHDは2019年4月に孫会社だった協和発酵バイオを直接の子会社とした。ところが同年8月に工場における製造手順で違反が発覚。年間80億円の利益を上げるという算段が崩れ、2020年12月期の予想事業利益は20億円の赤字を見込む。

5年後となる2024年12月期には、ヘルスサイエンス事業で150億~180億円の利益貢献を計画するが、その約半分を協和発酵バイオで稼ぐ考え。直接子会社化に伴い約1300億円を費やしているだけに、株主や市場関係者が神経質になるのは当然のことだ。

成長への道筋が不明瞭

2019年9月には化粧品メーカーであるファンケルの株式33%を取得した。約1300億円を投じて持分法適用会社としたファンケルとのシナジーは、2024年時点で約55億~70億円の利益を見込む。ただ、キリンHDの現在の事業利益規模からすると3%ほどの貢献にすぎない。

2019年8月に開いたファンケルの池森賢二会長(中央・当時)と島田和幸社長(左)との共同会見でシナジーを強調していたキリンHDの磯崎社長(右)(撮影:尾形文繁)

加えて、磯崎社長は「シナジーが出てから保有比率(の引き上げ)について考えたい」と述べているが、「シナジーが出てからではファンケルの株価が上がるため追加の投資額が大きくなる」(みずほ証券の佐治氏)。要は成長への道筋が不明瞭なのだ。

IFPの株主提案が否決されたことからもわかるように、ビール事業だけでは先行きが危ういという認識は、多くの株主の間で共有されている。だが、ヘルスサイエンス事業の戦略に対する懐疑的な見方はIFPの株主提案を機に広く浸透したといえる。

キリンHDが今後も多角化戦略を進めていくには、同事業で株主が満足する結果を出すことが必要だ。その兆しが見えるまでの間は、株主との対話を根気強く求められることになりそうだ。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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