東京の感染急増と医療逼迫で残される自衛の道 「ロックダウン」のデマ情報も拡散したが…

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そもそも「ロックダウン」という言葉が飛び交うようになったのは、3月23日の会見で小池都知事が何の法的根拠もないまま、「今後の推移によりましては、都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるをえない状況が出てくる可能性があります」と言い放ったことにはじまる。

つまり、できもしないことで、都民をあおったのだ。それで現状を「感染拡大の重大局面」と位置づけている。

その後、ロックダウンという言葉が斬新だったのか、ありもしない事態を無批判にそのまま伝えるメディアもあらわれてしまった。戦時中の大本営発表をそのまま伝えていた過去の反省もあったものではない。

仮に首相が緊急事態を宣言しても、強制力を持ってできることといえば、臨時の医療施設を設けるための土地や建物の接収や、医療品や食料品の売り渡し、緊急物資の搬送指示くらいだ。

むしろ宣言をすることは経済的な打撃のほうが大きい。東京の首都封鎖というより、首都機能が低下するからだ。政府が、いまは宣言のタイミングになく「ぎりぎりのところで持ちこたえている」と言い続けているのも無理からぬところだ。

1世帯あたり布マスク2枚?

安倍首相は1日の政府の対策会議で、自分も着用していた布マスクを1世帯あたりに2枚を配布する方針を表明した。「布マスクは洗剤で洗うことで、再利用が可能なことから、急激に拡大しているマスク需要に対応するうえで、極めて有効だ」としている。

1枚あたり200円で、これを2枚に郵送料金を約100円として、1世帯あたり500円もの経費がかかる。これを5000万世帯として、250億円以上になる。もっと他の補償に回せないのか、疑問も残る。

SARSが蔓延した台湾で見た光景(2003年、筆者撮影)

それよりも私の脳裏をよぎるのは、SARS蔓延の台湾で見た光景だった。

当時は若者を中心に、布マスクを思い思いの形や模様に加工して気を紛らわせていた。日本のアニメキャラクターがプリントされた布マスクも売られていた。

それから20年近くが経って、日本にも布マスクが登場してくるとは思わなかった。悪い夢を見ているようだ。

日本は諸外国と異なり、感染のピークをできるだけ遅らせ、ピークの山をなだらかにして医療崩壊を極力抑える”戦略”を取ってきた。ここ数日の感染者の増加が、その山であることを祈りたいが、その根拠もない。本当にいまが「感染拡大の重大局面」なのかもわからない。

ただひとつ言えることは、こうなると自分の命は自分で守るしかない。いかに感染を防ぐか、最大の自衛が必要である。それこそ、都市封鎖を信じて待っていても仕方がない。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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