中華料理の達人は、家庭でも料理をすべきか? 夫婦関係をよくする「義理と人情の経済学」

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例えば、夫婦が一緒に共同作業をすることで2人の間で信頼や共感が生まれる可能性がある。人は身近に「共に笑って、共に泣く」存在が必要だ。乳幼児を抱えた母親は精神的なストレスや物理的家事労働の多さにより追い詰められる。とりわけ核家族化が進んだ現在において、親など血縁者の助けを借りることも難しい。

この場合、夫が少しでも家事に参加し日常生活をサポートしてくれるなら、妻は大きな満足感を得ることができるだろう。妻の満足感が高まれば、夫も家庭生活が愉快になる。一方で、夫が家事参加する時間だけ収入が減少してしまう。夫の家事参加は夫婦にとっていいこともあれば悪いこともあるのだ。

私は共同研究で、独自に集めたデータに基づく統計分析によって、夫婦間の分業が夫婦喧嘩の頻度、結婚相手に対する満足感に及ぼす影響を分析した。データは結婚予定がある人に対して、毎月パートナーへの評価と調査前の1カ月間のパートナーとの喧嘩の回数をきく。

これを37カ月間続けて同じ人に対して追跡調査するので、結婚前と後のパートナーへの評価の変化がわかる。つまり、「ガール(ボーイ)フレンド」から「女房(亭主)」へと相手との関係が変化したときの、相手への評価の変化を検証できるわけである。

さらに、調査対象者およびそのパートナーの学歴も調べている。分析の前提を説明しておこう。夫婦の間の分業が生じる理由は、学歴などによって得られる収入に差が出るからだ。

一般にも知られるように、学歴が高いと高収入の職につくことができる。さらに夫婦間の学歴差が大きい場合、つまり中学卒業と大学卒業のカップルの場合、高学歴のパートナーが職について稼ぎ、低学歴のパートナーが家事に専念するだろう。夫婦の間の学歴差がなければ、共働きを選択する確率が高いだろう。このような推測から、学歴差が大きいカップルは分業していると仮定する。

分析結果によると、分業しているカップルには、共同作業を通じた共感や信頼感が生まれにくい。そのために、相手に対する評価は低くなる。これは夫婦の分業の直接的な効果である。

分業しているカップルの場合、日常生活で共に過ごす時間もなければ、家事の細かなやり方についての話し合いもない。両方が家事に参加するならば、意見の食い違いから夫婦喧嘩も発生しやすくなるだろう。喧嘩すると結婚相手の存在が不愉快になり、相手への評価も下がるはずだ。

したがって、夫婦の間で家事と仕事を完全に分けることにより、夫婦喧嘩の可能性が低下し、相手への評価も上昇する。収入も上がる。これは分業の間接効果である。分業の直接効果は相手への評価を下げ、間接効果は相手への評価を上げるのである。

夫婦喧嘩が少ないとかえって危険

分業が全体としてどのような効果を持つかは、直接効果と間接効果の差し引きにより評価できる。

データに基づく推計から次の結果が得られる。

次ページ得られた4つの結果
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