中華料理の達人は、家庭でも料理をすべきか? 夫婦関係をよくする「義理と人情の経済学」

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結果1: 結婚前に比べて、結婚後は分業するほど夫婦喧嘩の回数は減少する。
結果2: 夫婦喧嘩の回数が減少するほど、相手への評価は高くなる (間接効果)
結果3: 結婚前に比べて、結婚後は分業するほど相手への評価は低くなる(直接効果)

間接効果と直接効果を比べた結果は次のようにまとめられる。

結果4: 直接効果は間接効果の約10倍も大きい! したがって、分業することで相手への評価は低下する

これらの分析結果から、次のような男の日常を描くことができる。仕事で深夜まで働き疲れ果てて帰宅する夫。家族はすでに寝入っている。リビングのテーブルの上には、夕食が置かれている。

これを自分自身で電子レンジにセットしスイッチを押す。温め終了の音が部屋に鳴り響く。夕食を取り出し再度テーブルの指定席におく。椅子に座り、1人侘しく夕食を口に運ぶ。妻は専業主婦である。

結婚して1年ぐらいの間は夫の帰宅を待ち、互いに1日の出来事などを話題にしつつ遅い食事を共にしていた。帰宅後に1人で食するようになったのが、いつからか思い出せない。特に言い争いがあったわけではない。部屋の静寂が耐えられないので、テレビをつける。夫婦の会話がほとんどないことに気づく。

妻との間に、わずかに隙間風が吹いていることを感じている。そのことを、妻に打ち明けたことはない。打ち明ける時間も勇気もわかない。わき目も振らず働いて、十分な所得を家計にもたらしているはずだ。なぜこうなったのだろう? 妻にとって自分は単なる金を稼ぐマシーンに過ぎないのだろうか?

「共に泣き、共に笑える」関係が重要

私の研究の分析結果からすると、専業主婦家庭は物資的に豊かにはなるが、幸福をもたらさない。それは妻と共有する時間を犠牲にして得る収入では埋め合わすことができない「小さな幸せ」があるからだろう。

しかし、形式的な専業主婦だと不幸になるとも言い切れない。真野裕吉氏と私の共同研究から、教育水準の高い妻ほど専業主婦として夫の肉体的、精神的コンディションを整え、さらに助言や励ましの言葉をかけることで夫の所得水準を上げることがわかった。この場合、専業主婦の妻も夫と一体となって働いていることと同じである。

したがって、見かけ上の専業主婦か否かよりも、相互にコミュニケーションをとり夫婦一体で生活を送ることが重要なのである。つまり、「共に泣き、共に笑える」関係をいかに作り上げ、維持するかが夫婦にとって重要なのだ。

さて、最初の「中華料理の達人」に関する質問への私の回答を示しておく。

「そうですね。一緒に料理などの家事をすることで、喧嘩はするけれど『雨降って地固まる』ことになるでしょうね。少し効率性(収入)は低下するかもしれないけれど、一緒に泣き笑いの毎日を送ることが大切です。物質消費以外の『夫婦愛』によって、あなたも夫も幸福になります。人はパンのみによって生きていけるわけではないからです」

山村 英司 西南学院大学経済学部教授

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やまむら えいじ / Eiji Yamamura

1968年北海道生まれ。1995年早稲田大学社会科学部卒業、1999年早稲田大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2002年東京都立大学大学院社会科学研究科経済学専攻単位取得退学、2003年西南学院大学経済学部専任講師、助教授、准教授などを経て、2011年より西南学院大学経済学部教授。博士(経済学)。専門は行動経済学、経済発展論。

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