「テレワーク機能しない」旧来型日本企業の盲点 「業務分担」「評価」「教育」でつまずきやすい

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テレワーク・在宅勤務と関連してもう1つ、イノベーション(革新)をどう生み出すか、という課題があります。イノベーションの創造、例えば新商品開発というと、研究者が部屋にこもって1人じっと考え込む姿を想像するかもしれません。

しかし、これは効果的なやり方ではありません。経済学の巨人シュムペーターによると、イノベーションの本質は「新結合の遂行」、いろいろな知識・情報が混じり合うことです。違った知識・情報を持つ研究者が自由闊達に意見をぶつけ合う場を持つことが、イノベーションの創造には有効だと言われます。これは、近年のITのイノベーションがアメリカのシリコンバレー、インドのベンガルールといった産業集積で生まれていることからも明らかでしょう。

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つまり、イノベーションの創造においては、独りぼっちでテレワーク・在宅勤務するよりも、会社に集まるほうが断然有利なわけです。もちろん、テレワーク・在宅勤務でもテレビ会議を使って議論をできるので、会社の中でしかイノベーションが生まれないということではありません。

いずれにせよ、今後、テレワーク・在宅勤務が普及したら、イノベーションをどう創造するかが、より重大な課題になります。

テレワークは「一時措置」でいいのか?

企業経営者に以上の話をすると、「テレワーク・在宅勤務はあくまで新型コロナウイルス対応の緊急措置。何でもかんでもアメリカに合わせて変える必要はない」「今は新型コロナウイルス対応に集中するとき。収束したその先を考えるのは不謹慎だ」など、賛同していただけるケースが多い一方、かなり感情的に反論されることもあります。

この問題をどう考えるかは、もちろん人それぞれ。ただ「変える必要はない」という結論を下す前に、以下2点を認識してほしいものです。

1:アメリカではフリーランサーが5670万人おり(全労働者の35%、日本では341万人)、2027年には全労働者の半数に達する。世界的に場所・時間に縛られない働き方が広がる可能性が高い
2:職能資格給やOJTだけでなく、新卒一括採用、内部昇進、定年制、企業内組合など、戦後の日本企業の躍進を支えた人事制度・慣行が時代に合わなくなっている

個人的には、日本企業が今回の悪夢を乗り越えるだけでなく、危機をバネにマネジメント・人事制度の改革を進め、より強い姿に生まれ変わることを期待します。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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