この中で、②指示・報告、③勤怠管理、⑥懇親については、適切なシステムを導入し、社員がそれに慣れれば、多少の不便はあっても、大きな問題はないでしょう。一方、厄介なのが、①業務分担、④評価、⑤教育です。
まず①業務分担。日本ではT社のように、各社員が担当する業務を明確にせず、「皆で力を合わせて頑張ろう」とチームワークで取り組みます。この曖昧な業務分担は、個人で業務に取り組むテレワーク・在宅勤務とは、相性最悪です。
④評価とそれに伴う報酬の決定にも困難がつきまといます。日本の大手企業の9割が職能資格制度を導入しており、従業員の能力を評価し、報酬を決定します(能力を評価するのは難しいので、勤続年数とともに能力が高まるという前提で年功序列にしている企業が多い)。
仕事の過程が見えにくいテレワーク・在宅勤務では、従業員の能力を評価するのが難しく、やはり職能給とは相性がよくありません。
⑤教育も同様です。多くの日本企業の教育は「OJT一本足打法」で、職場で先輩社員が後輩、特に新人に手取り足取り実務を指導します。時間・場所を共有できないテレワーク・在宅勤務でOJTを実行するのは、かなり困難です。
アメリカにテレワークが浸透した理由
一方、アメリカ企業では、職務記述書(job description)で「経理課で連結決算係に所属し、グループ企業5社の売上高のデータ確認と仕訳を担当する」などと各社員の職務を詳細に定義し、職務の難易度に応じて賃金を支払います。そもそも中間管理職以下では、「評価」が存在しません。この職務記述書と職務給という組み合わせは、個人単位で仕事をするテレワーク・在宅勤務と相性抜群です。
アメリカ企業の教育は研修・セミナーなどを行う「Off-JT」が主体で、日本のOJTほどではないものの、テレワーク・在宅勤務とは相性がよくありません。ただ、そもそもアメリカではある業務の担当に欠員が生じたら、職務と能力要件を明確にして経験者を補充するという中途採用が主体なので、新人をゼロから育てる日本ほど社内での教育を重視していません。
日本の曖昧な働き方には、「チームワークや帰属意識が高まる」「リスクヘッジが容易」といったメリットがあります。アメリカの明確に役割分担する働き方にもいろいろなデメリットがあります。ですから、一般論としてどちらの働き方がいいとは断定できません。ただ、ことテレワーク・在宅勤務との相性という点では、断然日本が劣り、アメリカが勝っているのです。
つまり、日本企業がテレワーク・在宅勤務を本格的に取り入れようとすると、業務分担、評価・賃金、教育といったマネジメント・人事制度を大幅に見直す必要があるのです。
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