「新型コロナで円暴落」が信じられない理由 円は暴落も急騰もない「レンジ相場」が続く

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第1のキャリートレードについてみよう。キャリートレードは相対的に金利の低い通貨で資金を借り入れ、その資金を金利の高い通貨で運用する取引だ。リーマンショックの前からしばらくの間は日本の金利だけが極端に低かったため、円を借りて米国債や高金利の新興国への投資を行う円キャリートレードを世界の機関投資家が行った。ちなみに、2007年の10年国債利回りはアメリカもドイツも4%台であり、日本だけが1%台後半だった。この頃にはスペインなど欧州で円建ての住宅ローンが出されるほどだった。

景気が良いときは円キャリートレードが活発に行われて円売りが増えるので円安になり、景気が悪くなると円を買い戻すため円高になるという動きが続いた。例えばリーマンショック(2008年9月)でドル円は1ドル90円を割り込み、続いて欧州債務危機が起きると70円台にまで円高が進んだ。一方、先進国の金融緩和のもとで世界的な景気回復が続いた2015年には、ドル円は1ドル120円を突破する円安となった。

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しかし、FRB(米連邦準備制度理事会)もECB(欧州中央銀行)も超低金利政策や量的緩和を採用した結果、欧米でも金利の低下が進み、「日本化(ジャパニフィケーション)」と呼ばれた。欧州に至ってはマイナス金利を採用するようになり、ユーロも調達通貨として使われるようになった。

そのため、「リスクオンの円安、リスクオフの円高」の動きは以前よりも小幅なものになった。ちなみに昨年の数字で見ると10年国債利回りはアメリカがほぼ2.5%~1.5%、ドイツでマイナス0.7%台~マイナス0.1%台後半、日本はゼロ近辺~マイナス0.28%だった。

JPモルガンの佐々木融氏は「従来から『有事のドル』と呼ばれるように、世界で悪材料となるイベントが起きると基軸通貨であるドルを持っておこうというのは当然の動きになる。ただし、日本の投資家が円を買い戻す規模もそれなりに大きいため、円も強くなる。リーマンショックの前から円キャリートレードが盛んになったために、『リスクオンの円安、リスクオフの円高』という言葉が定着したが、歴史的に見ればこれほど極端な動き方のほうが例外的といえる」と話す。

証券投資から直接投資へのシフト

第2点は、日本の事業会社が、日本よりも高い成長が期待できる海外への工場建設やM&Aなど、直接投資を増やしてきた結果だ。2019年暦年の直接投資はネットベースで22兆7900億円余り、証券投資は9兆5000億円余りだった。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「日本企業が証券投資主体から直接投資主体になった。マーケットが荒れれば、外債を売る企業は多いが、買収した海外企業を売るという動きにはならない」と解説する。

欧米の金融政策が日本と同様になってきた背景には、欧米でも低インフレの傾向が強まってきたことが上げられる。そして、物価上昇率の差は通貨の価値に影響する。かつて円はデフレ通貨、ドルはインフレ通貨であることがドル安円高が長期に進んだ背景となっていた。なので、インフレ格差が縮んできたことも、あまり円高が進まなくなった理由といえるだろう。

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