関税削減で劣勢のWTO交渉 日豪FTAで重大な影響も
米国は「国内支持」(国内農業助成のための補助金や価格支持政策)の水準引き下げをEUや日本、開発途上国から求められており、この分野では、防戦一方になっている。
米国の農家には手厚い国内支持制度がある。つまり、【1】融資単価(ローンレート)で穀物を政府関係機関(商品金融公社)に質入れし、安値で売っても売却損を実質的に補填してもらえる仕組み、【2】過去の作付面積に応じた一定額の支払い(固定払い)、【3】価格変動対応型支払い(復活不足払い)--の3段構えで農家の生産費を保証するための目標価格が形成されている。
このような不足払いを含めた仕組みは全生産量にかかる補助金であり、その中には実質的な輸出補助金も含まれている。しかし、輸出を条件としていないため、WTOルールでは「輸出補助金」のカテゴリーには含まれない。輸出補助金については、05年12月の香港閣僚会議で2013年までにあらゆる輸出補助金の全廃が合意されたが、米国の実質的な輸出補助金は尻抜けになるおそれがある。そこで日本やEU、開発途上国などの各国は米国に国内支持の削減を求めているが、現時点で折り合いはついていない。
穀物価格が高騰している現時点では、ローンレートでの補填や復活不足払いは一時的に必要がなくなっているものの、下落局面では復活する。大統領選挙が間近に近づく中で、農業保護の削減の柱である国内支持は下げづらいのが実情だ。
一方、ブラジルやインドなどの途上国の発言力が増したのが、ドーハ・ラウンドの特徴だが、途上国は工業製品など非農産物(NAMA)の関税引き下げで米、EU、日本などと対立関係にあり、ここでも交渉は難航が続いている。
活発化するFTA締結 日本はアジアから着手
WTO交渉は農業、工業品、サービス、投資ルールなどの一括受託が条件(全会一致方式)で、自国に都合がよいところだけを採用することは認められていない。また、前回のウルグアイ・ラウンドでは、米、EUの合意で大勢が決したのに対して、今ラウンドは参加国が151カ国・地域に急増。インドなどの途上国が合意形成のカギを握っており、取りまとめは極めて難しい状況だ。
ドーハ・ラウンドは01年11月に始まったが、すでに交渉期間が7年近くになる。しかし、堂々巡りの対立が続き、06年7月の交渉期限までに合意することができなかった。そうした中で、WTOルール(最恵国待遇)の適用除外である、当事国間だけで特恵関税を認めるのを含めた自由貿易協定(FTA)を結ぶ動きが活発化(下図)。事実上の迂回ルートが出来上がっている。
日本がFTAや投資ルールの整備などを盛り込んだ経済連携協定(EPA)を締結したのは、02年のシンガポールが初めてだ。その後、メキシコ、マレーシア、チリ、タイと締結にこぎ着ける一方、ASEANとも07年11月に交渉が妥結した。