関税削減で劣勢のWTO交渉 日豪FTAで重大な影響も

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 しかし、日本の貿易総額に占める署名・締結済みの国の割合は13・6%、韓国、湾岸諸国、オーストラリア(豪州)など交渉中の国を含めても33%程度にとどまる(06年、外務省調べ)。主要な貿易相手国である中国、米国、EUとの間で交渉入りが実現していないためだ。

 米国はカナダやメキシコなど米州域内でのFTAを1990年代に実現する一方、イスラエル、ヨルダンなど政治・安全保障上の友好国との交渉を優先してきた。EUは、域内の経済統合自体がFTAである一方、湾岸諸国やASEAN、南米などとの間で、地域間関係強化の手段としてFTA交渉を用いている。

FTA交渉でも農産物開放がネック

 そのFTA交渉でも、日本は正念場に立たされている。昨年4月、韓国が米国とFTA交渉で妥結。コメを除く農産物市場の全面開放を決断した一方、自動車、電機など工業製品の輸出で有利な位置に立ったためだ。韓国はEUとも昨年5月に交渉を開始。中国、豪州とも交渉に向けた動きを始めている。日本と韓国はEUや中国でも電機や自動車などで激烈な競争を続けており、日本の経済界は危機感を強めている。特に工業製品の関税率が高いEUと韓国がFTAを締結し、関税を撤廃した場合の影響が懸念されている。

 日本は米、EUとの交渉に未着手である反面、豪州とは07年4月からFTAを含むEPA交渉を開始。この2月下旬には関税撤廃を求める品目を相互に提示する。その際にネックとなるのが豪州からの輸入の19%(06年)を占める農林水産物の関税引き下げだ。というのも、そのうち7割近くを、牛肉、乳製品、小麦などの有税の重要品目が占めているためだ。これら農産物の関税撤廃を認めた場合、牛肉や乳製品、小麦の国内生産は激減すると農水省は試算している(右表)。

 また、日豪間で関税撤廃の例外品目をどこまで認めるかは、将来の米国やEUとのFTA交渉にも大きな影響を与える。

 農水省の試算では、すべての国に対して国境措置を撤廃した場合、コメ生産の9割が減少、牛肉や生乳も約8割の減少が見込まれている。この試算に対しては妥当性を疑う声もあるが、日豪、日米FTAはWTO合意にも増して日本の農業や食料自給に大きな影響を与えうる。

 日本にとっては、まさに「前門のWTO、後門のFTA」である。農産物全面開放下で日本の農業は生き残れるか、重大局面を迎える。
(週刊東洋経済編集部)

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